1682. フィナーレ感想、さよならムヒョとロージー『3/3 - 理由』

コミックス18巻の作者近景で、西義之先生は以下のように述べています。

でもまた、もしも2人が…なんてときはチョット照れるけど、勇気を出してもしもしと。その時は一緒にお会いしましょう。きっとまた、いつの日か。

同巻の「あとがき」でも、以下のように述べています。

そんなこんなでこの作品には強い思い入れがあるのです。愛情の分、損したこともあり(細かくは省きますが)描き切れず終わってしまったので全く後悔がないとは言い切れません。

西先生が直接、打ち切りへの悔いや未練を漏らすほどのこと。あの打ち切り劇は、作者都合ではなかったと判断できます。そして個人的な憶測ですが、件の打ち切りは『人気低迷』だけが理由とは思いません。

箱舟編完結後も連載を続行したのは、単なる延命処置ではないでしょう。編集部は新装開店したムヒョロジが化けるか朽ちるかを推し量ったように見えました。事実、箱舟編開けの短編シリーズでは、掲載順も好調でした。しかし残念ながら、回を重ねるごとに掲載順は下降の一途を辿ります。

結論から述べますと、ムヒョロジは『人気低迷』の他、以下の事情が複合的に絡んだ結果、中途半端な形で打ち切られたのだと推測します。

  1. 人気が低迷した
  2. 編集部の期待度が低下した
  3. 世代交代の必要に迫られた

人気低迷による打ち切りはジャンプの常識ですので、言及は省略します。


編集部の期待度が低下した

異例の特別読み切り。夏の怪談特集。赤マルやGO!GO!ジャンプでは、魔人探偵脳噛ネウロとのコラボ企画。週刊少年ジャンプの中で、これほど厚遇された作品もなかなか珍しいのです。

それほどの肩入れ、テコ入れを受け、厚遇を重ねた理由は何か?

それはもちろんマルチメディア展開への布石です。アニメ化、ゲーム化、カード化、CDドラマ化、ノベライズ化…。一定の人気を得た作品は、そうして横展開すれば金になります。この手法は、現ジャンプ編集部で主流の稼ぎ方と思います。*1

どの程度の人気が乗れば、どこまでの横展開に勝算があるか。編集部は、その相関データを揃えているはず。そしてムヒョロジの人気票は、もう一押しで「一つ上の展開」を望めたのかもしれません。実はアニメ化までもう一歩だったとか。

また本作は、ジャンプには異色の絵柄・作風・ヒロイン像がありました。当たれば雑誌の読者層を広げる可能性も秘めます。様々な思惑の末、ムヒョロジは編集部から「商売になる期待感」を受けたと予想します。それ故の肩入れ、それ故の連載続行という裏事情が見えました。

しかして連載開始から、長らく三年半。様々な策を講じた結果、アニメ化へのボーダー越えはついに適いませんでした。ムヒョロジ人気は伸び代が限界に達したと判断されたのでしょうね。


世代交代の必要に迫られた

アニメ放映中の作品は、いわばフィーバー中のパチンコ台です。一玉でも多く原資を投入すれば、大きなリターンを期待できる。積極的にタイアップは、そのまま利益と直結します。故に、アニメ化中の連載漫画を打ち切った例は、少なくとも自分は存じ上げません。

アニメ完了後の作品は、いわば収穫後の農地です。丁寧にケアすれば次に繋がり、次期の収穫も期待できる。認知度、ファン、コミックス売上のすべてが右肩上がりに推移し、打ち切りとはおよそ無縁の地位が確立されます。一部例外もありますが、アニメ化経験作品は「円満終了」で収めるのが一般です。

今のジャンプは半数以上がアニメ化経験作品です。経験作品を一軍とすれば、未経験作品は二軍、三軍。つまり数少ない二・三軍だけで打ち切りレースを回す状況です。さらに昨今の漫画は長寿傾向。従って二軍に残留の余地は少なく、三軍は最短コースだと連載三週目の結果で打ち切り通知です。

この狭き門で三年半戦い抜いたムヒョロジは、さながら万年二軍プレイヤー。椅子取りゲームの椅子がないから、将来性のない老兵をリストラしたイメージ映像が浮かびます。あるいは、ことごとく日本代表から漏れた三浦知良選手と重なります。*2


どっちが悪かったか問題

ムヒョロジ打ち切りの件は、編集部の理不尽さに責があると見られがちです。しかし元よりムヒョロジは、編集部の期待から様々なタイアップを受け、連載が長らく継続した作品です。…もちろん下地には、作品自体の人気があってこそですが。

打ち切り当時、「編集部に振り回されたムヒョロジは散々だ」との風潮をよく目にしました。でもオレは、逆じゃないのかなと思うんです。『編集部の期待』に『応えられなかった西義之先生』という構図。その悔しさから、冒頭に紹介した言葉を落としたのかな…と。そんな哀愁の念を感じて寂しい気持ちになりました。

以上は、なまぬるくムヒョロジを観察してきた自分が、ごく個人的に感じた「印象の寄せ集め」にすぎません。「編集の一存で切られた」「人気低迷だけで切られた」など、シンプルな理由の打ち切りだったのかも…。

近未来杯の結果が芳しくなかったのに連載されたことから始まり、編集部の異様なタイアップ、打ち切り直前に掲載された西義之先生の特集記事を鑑みると。ムヒョロジの連載事情や打ち切り劇については、理由を深読みさせられます。

フィナーレ感想と銘打ちながら、実は今回で終わりません。まだもうチョットだけ続くぞい。そっちの『理由』は、次回の最終エントリにて。

*1:ホントの主流はワンピのコミックスだけども。

*2:ムヒョロジが世間的にトップアスリートだったかはともかく!