1642. 赤マルジャンプ 2008 WINTER

赤マル史上、ぶっちぎりの面白さ。これはジャンプSQ.なんて目じゃないね。ヘタすりゃ週刊少年ジャンプより面白かったかもしんない。「こんな赤マルだったら喜んで感想するのに…」という理想を再現した、渾身の一冊です。感動をありがとう、集英社様!

八割方が新作読み切りだから、普段ジャンプとか読まない人にも、是非オススメしたいです。赤マルジャンプはなかなか入手しづらいですが、きっと後悔はさせません。暇を持て余している方、ジャンプを読まなくなって久しい方なども、ぜひぜひ手にとってお楽しみください。

「おっ、こいつら新人作家なのに、なかなかやるな」って、そんな感想を抱かせてくれる、素敵な一冊に仕上がっています。

* 感想の前に
赤マル感想といえばおなじみのレーダーチャート評価ですよ。……だったことを、今さっき過去ログ眺めてて思い出しましたよ。本人もすっかり忘れるくらい、これの扱いは微妙ってコトですよ。んで、リニューアルしました。

『リニューアルするとこ間違ってるよ! 更新頻度をリニューアルしていこうよYukimiさん!』

……ん? 空耳?


新つばめチャート
はいこれね。文章とか長いので、チャートだけ眺めて「ああ、そういう文章を書いてんだろうな」って妄想してページ閉じていただければ、これ幸い。

テンプレート

以前のチャートは作品の出来映えをエッラソーに評価する素人に分かりやすい方式。た、対して新しいチャートは、作品評価から一歩下がった視点で「週刊少年ジャンプ」に似合うかどうかをエッラソーに採点する、玄人受けする素人にはかなり扱いにくい方式だ。(くわっ)

  • 構成力:世界設定の完成度は高いか、物語の展開手順は妥当か、人物の言動・動向に無理はないか
  • 表現力:読みやすく配慮された絵か、コマ割りは魅力的か、読者に理解されやすい絵・文章か
  • 将来性:週刊少年ジャンプの新連載に相応しい作品か、センスやカリスマを感じるか
  • 少年性:「少年少女向けマンガ」の作風を意識されているか
  • 人物像:人物造形は十分か、キャラクタに魅力的な個性はあるか、行動に矛盾はないか
  • 読後感:読了後の余韻はよいか、読み返したいと思うか、次回作は楽しみか

概ねこんな意味付けです。オレの個人趣向により影響されやすいチャートへ改造したので、「万人が評価した平均がこうなる」わけではありません。言い訳がましい物言いですが、オレが直感した感想を図形化したまでのものです。採点なんてエッラソーでごめん。

では久々の赤マル感想、気合い入れて書くよー。フフッ、キミに付いてこれるかな?(文章量的な意味合いで)

* 1 ジャメヴ(田中靖規)
『瞳のカトブレパス』で田中靖規先生を侮った人必見、渾身のデキです。見慣れたものが未知に感じる未視感『ジャメヴ』のタイトルが上手い。話を読み進めると、タイトルの意味が二重三重に生きてくる仕組みでした。特に目を引いたのはビジュアル面の成長。「脱ジョジョ絵」をよくよく意識され、宇宙人のキュートな絵柄で個性化を図るなど、作家側の改善努力が生きています。まだまだジョジョっぽいけども。

ジャメヴ

冒頭の山根先生のエピソードは、丸々省略しても話として通じたり、完全に無駄と思える展開もちらほら。52ページで凝縮というより「52ページでっち上げた」という印象です。妹・いろはも性格設定はいい味付けなのに、主人公・岳がハインと共闘する理由付けに終始し、いまいち生かしきれない中途半端さを感じました。「群れるのが嫌」で故郷を離別したハインが人間とは群れようとする行動も、一抹の煮え切れなさを抱きます。

原稿を簡潔に綴じる必要のある「読み切り」としては、それら物足りない描写も、欠点と呼べないほど些細なもの。十分に及第点の内容です。本作は連載化に相応しい題材ですが、週刊連載では「些細な物足りなさ」が綻びて大きな穴にもなります。完成度は高いのだけど、わずかな不安が残ります。

不完全な人間が『唯一の方法』で完全な宇宙人に立ち向かう展開は大好きだなあ。対策の術があることで『無謀』から『勇気』に取って代わる、これぞ少年漫画という瞬間の描写が熱い! 完全者が「不完全ゆえの美」を見出すくだりも納得感は十分です。この礎が厚いから、ハインは人間の強さと魅力を確信し、人間を守る動機も揺るがないですよね。延ては『宇宙人と人間のバトル』が、「定番の筋書きレベル」から脱却できています。バックボーンが骨太なので、連載化されても、描きたいことや作中メッセージ性はズレないでしょうね。

* 2 COUNTRY ROAD(吉田拓郎、小林ツトム)
前作『砂のシグマ』からずいぶん垢抜けた印象で、急激に成長されています。それはまあ、原作付きだからかもしれないけど…。絵柄はシリアスダーク路線なんだけど、お話の雰囲気は明るくてコミカル。二つの個性が贅沢に調和されており、読んでいてすっかり作中の魅力に引き込まれました。

COUNTRY ROAD

一国の王女でありながら、率先して戦いに身を投じる理由付けが曖昧で、納得感に欠けました。王女を戦闘要員にする必要性はあったのか。『国際社会』というテーマだからこそ、「マンガだから」と言わず、リアルな王女像を描いた方が、説得性を得たかも。テロ首謀者エナミーの人物造形も酷い。首謀者なんだから、もっとまともな悪(彼らにとっての正義?)の信念持ってるハズだろうに。テロを馬鹿にするのはすごく良いけども、「お馬鹿なテロ首謀者の所為で一国崩壊の危機」って、巡り巡って自国の不甲斐なさを主張しちゃってるよ。

兄弟の回想は、病気の弟が顔を隠していた時点で「弟が主人公かも」と予想してしまうのだけど…。本作に限らず、読切作品ってのは、読者を驚かせる伏線を仕込んだ者勝ちな風潮があります。それを認知した読者は、冒頭の無意味な描写や台詞、回想時の怪しげな表現は、すべて「これ伏線?」と疑って読む癖がついてます。そうした作者泣かせな読み方をせず、ストレートに読めば、ネタバレ時の『してやられた感』は高かったと思います。

外交官の兄が殉職した後も、ビュウは他国を逆恨みせず、兄の背中を追って外交官の道を選択するというくだりは実に清々しい。主人公が先駆者に憧れて大きな目標を抱く、俗にいう「ワンピーステンプレート」の亜種ですが、「またワンピか」って印象は残りませんでした。己の信念や目標に、一曇りの疑心も不安もないところも、もろにルフィ像そのものなのに、ダブって見えないのも不思議。

終盤の国際社会用語連発は、ユンボルのセンスを感じずにはいられません。シリアスな戦闘の中にも笑いを。作品の性質がコミカル路線だけに、立派な心がけです!

本誌は休載というのに、出張営業までして倍働く麻生先生に乾杯したい! 友達だけでダウナーな雰囲気になり、だらだら過ごす感がありありと表現できていました。この空気感を味わえただけでも読んだ甲斐あり。下ネタの天丼も大好き。マサユキはよくがんばった。「る」の下ネタはルーペプレイですよね!

単なるしりとりがストーリー性を帯びて…という予想だにしない展開も大好き。ツッコミ要員ゼロなのが良い。盾がつっこまないのが良い。オチは面白いというより上手い、技ありのセンス。

* 4 画狂人MANJI(松雪ヨウ)
絵柄に若干の古さを感じるけれど、今回の掲載陣中では逆に個性色が出ています。後半に進むほどキャラ描写が小慣れて、絵が上手くなる現象も微笑ましい。姉をお色気要員と割り切って、クールにパンツを見せながらその実恥じらいの表情を見せたり。股間や胸をまさぐられて完璧に感じてらっしゃる表情を浮かべたり。これを読んだ少年達が、痴漢犯罪者に目覚めないことを祈るばかりです…。

COUNTRY ROAD

アートを題材にするだけあって、果敢に美術表現を用いるものの、画力が今一歩及ばず、一読者として消化不良な気分でした。こんな比較は松雪先生にたいへん失礼ですが、この作品を尾田先生や松井先生が描いたらスゴいことになるんじゃ…とドキドキ。つまり、本作の題材や設定自体には、光るものがあると言いたいわけです。『ツギハギ漂流作家』もこのくらい大胆に文豪バトルしてくれたら人気出たかもしれないのに。…本題から逸れっぱなしで失礼しました。

フランの見せ場・写真撮影って挿入する意味が見当たりません。すでにスクープ記事(たぶん写真含む)は世間に認知されているのだし、今さら撮影しても…。「カメラは記者の命だい!」のコマが、少女マンガに出てくるイラズラ少年のまさにそれで、緊張感を損なったのも残念。ギャグ面で使えば有効手なのに、シリアス面では痛手にしかならないのね。『仁王アマゾネス』は称賛したいポイント。女好きキラーに相応しい渾身のトドメ、かつ一作品として最高潮を演出するに相応しい迫力です。

赤マルに掲載される漫画としては申し分ないデキですが、今回に限っては平均レベルが高すぎて埋没した、口惜しい作品でもあります。

勇者学で部室の日常を描くと、途端にジャガーさん色を帯びてくるね。ダメ人間が集ってダラダラすると、こうなるのかと再認識。てーか、なんでDS止めてバーチャルボーイなんだよ(紙面が赤いだけに)。ものまねがストーリー性を帯びて…という天丼展開も鉄板のデキ。前編と違ってストーリーの中身が今イチなのに、天丼ってだけで笑いが取れるからズルい。

ちなみにオレは勇者学、ジャンプ本誌じゃそこそこ好きな部類です。でも正直、これだったら太臓やペンギンを読みたかったなと今でも思ってるくらいなので、そういう扱いなのかも。特筆すべき「筆の速さ」は、編集部から評判が良さそうですね。

* - 本誌連載番外編

ToLoveる番外編
 いつもにも増して軽いなあ。1分もかからずに読み終えるほどフワフワだなあ。普段あんまり漫画読まない方には、これくらいライトタッチの方がウケるのかな…。
SKET DANCE番外編
 スケットダンスは今ダントツで一番大好きなジャンプ漫画。赤マル時代からイチオシで応援してきた生え抜きファンだけあって、最近言われる『乙女人気』には、物凄く抵抗感があります。そりゃ、彼女が出てきたら確実に笑えるけど、スケットダンス本来の魅力はそっちじゃないんだよ! 篠原先生が乙女人気に背を押されつつも彼女の登板を控えているのも、十中八九同じ理由と思うんだ。…と、ジャンプオタがくどくど語ってもキモイだけなので、番外編の感想を。
 やべえ、乙女エピソード最高におもしれえ! 乙女ちゃんの『ヘタ絵』の個性を完全にトレースし、単なる『ありがち少女漫画』に留まらないエピソードなのが秀逸点。ボッスンのアシテクが着々と上達していくネタなど(正直何が上達してるか見当は付かないけど)、スケット団ならではの細やかな小ネタが効いてる心配りが嬉しい。
家庭教師ヒットマンREBORN!
 昔のリボーンが戻ってきた感覚で微笑ましい。だけど毎週これで連載されたら、それはそれで、かえって疲れそうです…。マフィア編と日常編のバランス感覚を養えば、もう一化けもあり得るんじゃない?
私立うさぎ学園
 メロンパンを もっ もっ もっ と食べるシノが可愛い。実は正直、サムライうさぎ本編のシノはあまり可愛いと思えなくて困ってる(ロリ属性ないからなのかなぁ…)のだけど、彼女は学生服が似合いますね。ごっちんが読んでる『思春期の剣道』が気になるよ。成長するにつれ昂ぶり、ともすれば暴発しかねない自身の木刀(でも切れ味はよい)を、いかに抑制しつつ付き合っていくかを指南する書、と予想。それなんてエロ本。
エム×ゼロ
 胡玖葉姉さん最強の理由が明るみになった! すべては身長を伸ばすために、人間離れした特訓もとい数々の矯正を経て、現在に至るわけですか。『感謝を込めながら正拳突きの修行』とかも、身長伸びるならやってのけそうだよこの人。

* 6 唐草模様(杉田尚
杉田先生が威風堂々の登場です! センターカラーじゃないのが不思議なんだぜッ!! オレ達の杉田先生はまだ始まったばかりだ!!!

唐草模様

素人には扱いにくい設定

私 三上沙奈は屍(しかばね)高等学校という学校に入学しました
生徒の八割が不良という日本一評判の悪い高校に…

だめだー! すぎたんが『斬』からまったく退化してねぇー!(良い意味で)

『屍』という学校名。そして『生徒の八割が不良』。相変わらず杉田先生、初っ端から無茶な設定をブイブイ飛ばします。きっと学園祭では、不良一トーナメントが開催されますね。残り二割の善良な生徒は無事なのか!? むしろ残り二割にスポットを当てた漫画も読みたいよ。あとな、学ランの下にYシャツ着よう。せめて裸は止めよう。特風じゃない普通の風紀委員は何やってんの!


独特の言葉回し

『斬』時代にはよく見られた杉田先生独自の言い回しは編集サイドが概ね添削した様子です。「かなり」とか「極めて」とか全然登場しなくて悲しいです。しかしながら、そうした添削をすり抜け、ドモリ文句が残っているのは嬉しい! 思考中の台詞であろうが関係なくドモりまくり。特に一般人代表とされる沙奈のキョドり様は情け容赦ない。総計25回もドモってらっしゃる。これ完全に『ドモリ症の女の子』ってキャラ設定だよ!

ところで、杉田先生のセンスをモロに感じたのが『特風(とっぷう)』です。屍高の不良共を一手に粛正する組織の名前が最も族っぽいという、風紀委員にあるまじき状態! しかも、特風の隊員は二人だけ。ああ、これなんてツー特風(笑) 読み切りだから登場人物を絞ったにせよ、だったら『委員会』じゃなくてもよかったのに…。つか、今さら突っ込むけど、主人公の名前がキルて! なんてストレートな中二病ネーミング! 杉田先生に激しく萌えてしまいます。


世界観
拳と拳だけで戦うマンガだと思っていた時期が、オレにもありました。後半に入ると、木刀を持ち出す不良が登場。更に短刀、仕込み刀、十手など、バリエーション豊かな武器が続々登場! こ、この世界観はもしかして、法律で帯刀が許され、サラリーマンや学生でさえ男ならば刀を所持する「現代」なのか!? このまま気を許すと、手裏剣や木槌からはじまり、ものすごく切れ味が悪くて破壊力の高い十手、ものすごく切れ味が良くて羽根のように軽い十手などの登場も馬鹿にできません。

使いもしないのに三年間肌身離さず十手を所持していたり。あまつさえ三年ぶりなのに必殺技をキメたり。十手は刀を折る武器なのに、それは狙わずタコ殴りしたり。これなんて『斬』ですか!


恒例のバトルアングル
『斬』読み切り時から惚れ惚れするような多角アングルの描写力を備える杉田先生。今回はキャラクタ全員の等身大が上がり、よりスマートに、しなやかに、オシャレに、伸び代のある空間を表現できています。右手の刀が次のコマで左手にすり替わる大ポカも今回はない(と思う)し、毎週キチンとチェックすれば、今度こそ画力や表現力では勝負できるハズ。全力で応援しております!

非戦闘要員に徹した沙奈は、杉田作品として捉えると、非常に惜しいヒロインの使い方です。彼女は戦えない方が作品の方向性として有効手なだけに残念。もしも沙奈が戦っていたら、すべからく超ローアングルから「絶対に下着が見えないスカートからスラリと伸びる太もも」を射抜かれていていただろうし、M字開脚座りだってご披露されたかもしれない。ああ、本気で無念…。


「男性ファン」よりも「女性ファン」を確保する目的
「特風」の二人があざとい。実にあざとい。ヒゲ、眼鏡、背の十字架、裸で学ラン、スカーフ、皮グローブ、長髪……ワンポイントのファッションが、なぜかどれもあざとく感じて仕方ないと思う。女性ファンもドキドキして仕方ないと思う。幼馴染みヒロインのツンデレラ性に隠れて、実は天性の隠れツンデレな希流も、かなりの総受けキャラってトコロが見逃せないですよね。例えば希流は、委員長の前だと急にドモりやすくなるんですよ(4回もドモった!)。そういうとこ、あざとく狙いすぎだよなあ、杉田先生。

委員長×希流で「一生足腰の立たない身体にしてやるから覚悟しておけ、唐草」と王道で組むのもアリ。長髪×委員長で「そんなに言うなら委員長のココ、更生させてあげますよ?」と逆転シチュも組ませても余裕ッス。彼らの組み合わせは自在じゃないか、常識的に考えて。


定番の杉田オチ
杉田先生が話を終えるときは、必ずと言っていいほど屋上で大団円オチ。毎度思うが、なんで屋上なんだろう。青春ぽさを演出できるから?

* 7 柔の男(荒井友規)
今回の赤マル掲載陣は「タイトルにセンスがある」マンガが揃っている中、本作はストレートすぎて残念。荒井先生はパンツをこよなく愛するパンチラ作家だということも、重々理解しました。絵柄が稚拙だけど、このパンツ愛があれば、今後の成長は十分期待できることでしょう。

柔の男

エロいけど強い主人公という造形は、ジャンプと相性が良いです。本誌では太臓以来見かけないですが、個人的には作風がコミカルタッチになるので好き。ケースにもよるけど、『エロは力の源』と直球で言ってくれた方が爽やかに聞こえます。いちごやToLoveるの前例はあるし、画力の成長次第では、荒井先生のパンツ漫画連載化も冗談では済まないかも…。

読後の印象はパンツマンガ。柊が様々な『パンチラの型』をご披露するマンガと解釈すれば、8割方正解と思います。主人公とヒロイン以外の人物描写がテキトーで心象悪だとか、万作が白帯の理由を言及していないとか、そもそもこんなに強い理由は何なのかとか、そうした様々なツッコミは、本作には無粋かもしれません。「こんなシチュエーションであんなパンチラを描きたいんだ!」という話。逆に清々しい。

総合すると、最高位魔法「パンツが」の使い手としては右に出る者が居ないとされる大賢者の人も納得のパンツマンガだと思います。

* - ジャンプSQ.番外編

紅 kure-nai
 ファンサービスに徹したキャラ見せ回って、ファン以外の人はどうすればいいのか戸惑いますよね。紅がヒドイって訳じゃなく、他誌でもアニメでも頻繁にやられているのを見ると、そうした風潮がなんだかなあと思うわけで。
罪花罰
 母さん、袋綴じをご開帳したら、本当に袋綴じの内容だったんだ……。スケットダンスも読めたし、罪花罰も読めたし、今回の赤マルは本当に贅沢の極みだ! 股間ラフレシアに笑。それある意味隠してるより卑猥だー! 友情の手とり足とり、ねちっこく腰をとってるところも見逃せない。三上先生もまた、『BLマンガってよく分からないけどこういう感じに描くとウケるんじゃね?』って女子の趣向を研究しながら生計立ててる男性作家と思うんですが、ここまで描けてると実は本気じゃないのかこの人って思っちゃいますよね、アハハハ!
ギャグマンガ日和
 増田先生、番外編を描くのよっぽど嫌だったんだろか。アシスタントや担当の人たちは、増田先生の体調を気遣ったりしないんだろか。ここの二ページは、なにかしら鬼気迫る病的な印象を受けて怖かった…。

* 8 57th−フィフティセブンス−(附田悠斗)
ごくごく等身大の青春を描いた本作。強烈なインパクトも、過激なバトルも、奇抜な異能も出てきません。しかしながら、しんみりと胸に染みる素敵な友情ドラマが広がっていました。自分も高校時代は勉強ばっかしてたので、修の「早く帰って勉強しなきゃ」と焦る気持ちが微笑ましかったです。

57th−フィフティセブンス−

実はリアル友人に修のような奴がいて、彼もまた十分な学力がありながら高校受験に失敗し、滑り止めの私立校へ進みました。その経験から高校時代はずいぶんとひねちゃって。必要以上に勉学へのめり込み、あまり遊べなくなり、疎遠になったものでした。同窓会で会ったらすっかり垢抜けていまして。きっと本作のような『素敵な友情』を、どこかで築けたのでしょうね。そういった、自身の埃を被った思い出を解き放ってくれる、キレイなお話しでした。

純粋な学園青春ドラマを描くに欠かせないヒロイン。主人公とは対極の性格・人格を持つという定番の設定ながら、日菜山の一挙動が非常に愛らしいです。特筆すべきは屈託のない「笑顔」。人見知りで戸惑いがちの彼女が、ニンマリ笑顔になる『逆転変化』の描写は、読み手の感情を揺さぶる一撃になったでしょう。しかしてその「笑顔」が、本作の重要なキーワードにもなっており、二重の感動をいただきました。

短編モノなので連載化は難しいですが、こういった『ジャンプらしくない青春モノ』が一本くらい本誌で連載されても、新鮮でいいんじゃないかなと。年齢層の被る「中学生」「高校生」に読んでもらいたい、マンガです。

* 9 タビネコ(斉藤修)
前代未聞、SnowSwallow初の、レーダーチャートパーフェクトを記録しました。赤マルデビュー組では『island』の古味直志先生に引き続き、斉藤修先生も本誌登場は時間の問題!。(と個人的に超々期待)

タビネコ

根拠ある世界観の構築
生物学、波動物理学、宇宙論を引用し、科学設定を織り交ぜながら、独自の世界観を魅力的に表現できています。物語の軸となる世界観が揺らぐと、本心から作中に感情移入できません。どんなトンデモ発想でも構わないけど、読者を説得するに足る世界を描けるか。作家が大物に化けるか否かの境界線は、そこだと思います。『タビネコ』は赤マル掲載陣の中でも、これがズバ抜けています。

言い過ぎかもしれませんが、例えばそう、藤子漫画を読んでいるような気分でした。前作『MILE=LIFE』の世界設定は多少の無理も見えましたが、本作ですっかり脱皮した印象です。

ネコとリス
主人公タビネコの容姿は、ともすると拒絶感を抱く読者も居そうです。本作最大の弱点はそこかもしれません。しかしながら、読み進めると大変に魅力ある人物造形。無理をしてでも読み進めていただきたい作品です。

相棒のススイロは、単なる『マスコット』と思っていたら、とんでもない大どんでん返しを食ったよ! ススイロの素性を知る前と後とでは、彼女に目を向ける意味が変わってきます。ベッドで写真立てに囲まれるススイロの姿には、目頭が熱くなりました。ああ、なんという夫婦愛か。既婚者を主人公の漫画となれば、『サムライうさぎ』に次ぐ地位を築けそうです。

二乗の感動
すっかり心の擦れたテルモリを、あの手この手で説得し「救われていく過程の描写」が見事でした。村人感動エピソードだけでも十分すぎる感動なのに、そこへ夫婦愛感動エピソードを上重ねして、二乗の感動を引き起こすに成功しています。

単なる感動の投げ売りではなく、すべて「テルモリを説得する材料」として挿入されるエピソードだけに、その必要理由も理解に足ります。感動の創造性と、それを無理なく収める構成力、双方が極まっており、ハンパない作家先生ですよ。ああもう、村人の優しさが卑怯すぎる! 夫婦の愛が卑怯すぎる! これらがダブル展開するのは圧倒的に卑怯すぎる! くやしい…でも感じちゃう…ぶるぶる、まるで為す術もない状態。

鮮やかな画力
こう言っちゃ身も蓋もないんですが、マンガって結局、絵が上手ければそれなりに売れるじゃないですか(本当に身も蓋もない感想)。斉藤先生の場合、動物も、女の子も、モブも、背景も、どこを取っても綺麗で可愛らしい。これで赤マル作家ってんだから、今後どんだけ成長するんだって話ですよ。末恐ろしくて失禁モノですよ。

この赤マルはプレミアが付きそうだから、残しておいて損はないぞ!

* 10 魑魅魍魎有限少年(川井十三)
絵柄、お話作り、世界観の構築、諸々に荒削りなポイントは見られます。それを差し引いても、エネルギッシュな作風と、大胆な演出の数々に、見惚れるものがありました。力を持たない頭脳型と、力自慢の猪突猛進型のパートナーってのは、ベタベタだけど好きだなあ。冒頭に出る本中の鵺が悪四郎の切り札になる伏線作りも味があります。

魑魅魍魎有限少年

鉄くずを金に変える能力なんて「時間を止める」くらいの反則技。この力があれば世界経済の掌握(あるいは破綻)も夢じゃない。だけど悪四郎はこれを悪用せず、己の『娯楽』のみに生きます。悪四郎という人間の図太い信念と浮世離れした思考回路を、そうした背景だけで読み取ることができるんですよね。「読切作品」でこれほど簡潔に主人公を紹介できる作家性は、称えられて然るべき点です。

作品構造としては、さながらシャーマンキングのまん太ポジションに立つ五郎の視点から、読者は作中世界を観察するわけです。悪四郎にビビったり、特異能力に驚いたり、妖怪に恐怖したり。彼の挙動は「この世界の標準」を指し示しめすのです。五郎も解説役として奮闘しますが、妖怪バトルの加速に伴って、悪四郎に「読者視点」のお株を奪われます。この視点のブレ、個人的には残念でした。感情移入する対象が誰なのかを読者に思考させては、せっかく作中に入り込んでいた気分が冷めちゃう。序盤から「読者の引き込み」が上手だっただけに惜しいです。

500の妖怪を従える主人公…その数だけ聞くと、もはや妖怪は「常識」という気がします。妖怪を悪用する犯罪は多発すれば、それを取り締まる妖怪使いの職業も自ずと生まれるもの。ムヒョロジの魔法律家並には知名度あるんじゃないかな。そして最後の幕引き「オマエの命はオレが買ったんだ」って悪四郎くん、キミは何をしに転入してきたのー! 妖怪騒動に巻き込まれると不登校になる週刊少年ジャンプの祟りですか。

* 11 僕のヒーロー(堀越耕平
ヒーローに憧れる主人公・緑谷が、ヒーローになるまでを描いた作品。ヒーローは「なろうとしてなる」ものじゃなくて、諦めずに行動していれば「いつの間にか誰かのヒーロー」になっているという、皮肉の効いたオチが素敵でした。ところで、ラッキーマンが懐しくなりました。

僕のヒーロー

緑谷の立場を「ヒーローにアイテムを売り込む営業サラリーマン」に置いたのは斬新。少年マンガなのに、なんて回りくどいんだ!(褒め言葉) 「社会人」としながらも、少年の純粋さを心に宿しており、大人という印象は受けません。子供達にも等身大で感情移入できそうな人物造形にまとめたのはポイント高。加えて、貧弱でありながら『立ち向かう勇気』と『諦めない気持ち』を強く抱く雄姿に、感動すらします。アイシールド21の雪光とダブって見えたので、余計にぐっときた!

まさに週刊少年ジャンプ版『ボーイズ・オン・ザ・ラン』とでも言いましょうか。いい大人になったのに、コシュチューム脱いで屋上からダイブして、営業に走るんだもんなあ。ファンレターのモノローグから、ポジティーに面と向かって「ボクは… サラリーマンだ!!」と宣言するまでの一連の流れ、サイコーに格好良かったです。緑谷はまさしくヒーローでした。

本作の連載化は難しいと思いますが、こんな熱いヒーローを描ける堀越先生だから。きっと本誌でも、思いっきり勇気の籠もった渾身の連載を手懸けられると信じます。

* 12 100ドルは安すぎる(山本かずね)
タビネコであれだけ煽っておきながらゴメン。「100ドルは安すぎる」もパーフェクト評価にしたかったほど、計り知れないセンスに魅入られました。ドリンク紹介が大人向けでしかないという、たった一点で「少年性」を落としています。

100ドルは安すぎる

推理マンガなのにゴテゴテした文字の羅列がないのは、非常に珍しいです。デスノートやコナンは、長文読めない少年少女には入り込めないでしょう。ネームの整理整頓をここまで極めつつ、更にニクイ演出の数々を仕込む。これはもう「天性」の構成技術といっても過言ないです。この推理料、100ドルは安すぎるというタイトル連動のオチも完全美。

個人的に「室内劇」漂うドラマって大好き。ただ一室の限定空間で会話を重ねるだけなのに、どんどん世界が広がてくワクワク感が魅力的なのです。中盤で写真撮りに外出したのはちょっと残念だったけど…。終盤の外出については、これはもう後日談なのでノーカウントですね。アクションシーンもなかなか鬼気迫る画力を提示され、「漫画賞としての原稿」としても申し分ないアピールポイントでした。

そんな中でも、山本先生に最も魅力を感じたのは、「リアルな人間味溢れる人物造形」です。なんというか、虚構も遠慮も過剰演出も綺麗事もない、紙の向こう側に血の通った人間が存在している感じ。「あ、こんな人いそう!」と思わせるリアル性に惚れました。いやまあ、多少はね、序盤に天然ボケで萌え狙ったりもしてるけど。「キンチョーすると焦って本題から逸れた話をしてしまう」人って居るからなあ。これもまた「天性」の人間観察力です。天は二物を与えましたッ!

* 13 SPEED STAR(吉田雄太)
はい、このオレに何を期待してるか知らんが、二番煎じな感想にはしないつもりだ…ッ!

SPEED STAR

小さい人がバスケするってだけでかなり反則の部類に入るのに、『スピードスター』ですからね…。『大きい人を体感して折れちゃった』ですからね…。『再起できないのは精神的な問題』ですからね…。ああ、認めるさ。否応なく反応したさ。そっちの感想欲求が疼いて、思わず(ジャンプ感想の)筆を握ったさ。くやしい…! まんまと吉田先生のトラップにハマって赤マル感想書いてるオレ、くやしい…! でも感じちゃう…(後略)

チビでも努力で頑張る! という型の主人公が多い中、自ら卑屈に「チビじゃ通用しない」と夢ぶち壊しコメントを吐く主人公も珍しいです。卑屈な主人公がチビッコ少年に励まされて再起する物語展開もまた新しい。「ありふれた設定」から脱却したお話作りを心がけている様子で、良い傾向と思います。対戦相手のデカい兄さん達も、必要以上に悪役じゃないのは好感。「至極真っ当な理由」でケンカを売れば、悪役もサマになるという良い例ですね。

しかしバスケ漫画の読み切りって、なんでこう、ラストは「みんなでワイワイがやがや大団円オチ」なんすかね? 杉田先生の「屋上で大団円オチ」に近い法則性を感じました。

* 14 P2! - let's Play Pingpong! -(江尻立真
涙々の最終回。これで終わってしまうのかと思うと、ページをめくる度辛かったです。けれど本編に湿っぽさは皆無。明るくポジティブな雰囲気作りに徹した江尻先生の真意は、ファンへの「笑顔でお別れ」というメッセージだったのかも。

久しくジャンプ感想から離れたため、伏線や登場人物の細部まで覚え切れていません。少しでも不明な点はWikipediaなどで補完して楽しみました。疑問にも思わなかった描写を多々食べ残しそうで心配。江尻先生といえば、入念に伏線を張り巡らせる策士作家ですからね。この最終回はネタ晴らしとファンサービスの嵐で、ファンには悲鳴モノだったろうなあ。とりあえず三度復活した岩熊先輩、ナムでした…。

最終回を迎えてなお「ドイツの”暴帝”ハインリヒ=フォンローゼンベルク」が気になります。確か岩熊先輩が二度目の負傷後、ドイツへ向かったと記憶しています。作中で語られた『三度目の負傷』は、暴帝と戦った結果なのかなぁ…とか、妄想が止みません。

だいたい、どんな卓球したら”暴帝”なんて二つ名が付くの! ピンポン球を打ち込んで卓球台に風穴開けて、相手のフィールドをボッコボコにするとか? 卓球台に接着した瞬間、ピンポンが弾け散るとか? 対するヒロム、持ち前の眼力で「ピンポン球は炸裂しない」「卓球台は砕けない」と、これを全面否定して回避。寝不足で下痢気味ながら「だからこそ言おう! 僕は一分一秒ごとに成長しているんだぁー!」と理不尽なセリフで逆転される悪夢を見そうです。

…冴えない感想になったなぁ。毎週言及してないマンガの最終回感想って、敷居高いよ…。



各作家先生様、週刊少年ジャンプ本誌での再会を楽しみにしております。