844.ムヒョとロージーの魔法律相談事務所 - 第01巻

本誌連載時の感想とは少し趣向を変えて、様々な視点からコミックス版を感想し直しました。なお、加筆修正ついては、本誌を破棄しているので確認できません。ちなみにこの感想、とんでもなく時間掛かってます。昼頃に仕上げてUPする予定が、気がつけば夜9時じゃないですか。オレの数少ないGWが一日つぶれた…。

(5/4追記)蒼い髪と黒いノートと黄色いドロボウ様が、詳細なデータベースを作成されています。合わせて読むと面白さ増大。オススメですので、是非観てください!


* 第01条 - リエとタエコ
総評
ページ数が多い初回の土俵でありながら、物語の起承転結が驚くほど明確。ネームの完成度を高く評価。

感想
第一話となれば普通、作中情報の説明量が必然的に多くなります。本作はとりわけ独特の設定が膨大な中、今話に必要な設定だけを集約し、物語の進行を妨げぬよう適時紹介します。「魔法律の存在と能力」「霊の悪行の説明」「魔法律家の階級説明」「事務所の存在意義」「事務所のルール」これらを散り散りに解説し、物語に違和感なく溶け込ませました。ここには、多くの少年漫画に見られる「設定説明だけで2ページも4ページも費やす間、話の進行は停滞」という悪例が全くない。進行の上手さは西先生の持ち味であり、今後も持ち続けて欲しいテクニックです。

マニアックアイ
マニアなファンの目でチェックする『マニアックアイ』で、他の濃厚ファンも支持するであろうマニアックなポイントをベスト3にして紹介。

  • 【第三位】 記念すべき第一回・ジャビン表紙は『トマト』。この作品、トマトは頻出のアイテムです。
  • 【第二位】 記念すべき第一回・草野の変装テクはJR橋木駅前の「作家キャップ+怪しいサングラス」。コンビで変装すると一体感あり!
  • 【第一位】 依頼人リエが多くの危機を乗り越え、ついにパンチラを完全死守。全米(男性読者限定)が泣いた。

今話の草野くん大暴走
「エヘヘ……ムヒョったら…!!」
エヘヘ……ムヒョったら…!!

コミックス01巻 第01条 P56より
六氷「─冥王の気が変わった タエコは「三途の川」行きに変更だ」
草野「……!! エヘヘ… ムヒョったら…!!」
草野、一話目にして乙女テクをいかんなく発揮。作中ヒロインが嬉しさの笑みを表現する『エヘヘ』。いたずらっ子を注意するような『ったら…』。とどめは切なげに『涙目』。合わせ技一本です!

* 第02条 - キヨミおばあちゃん
総評
読切時代からの「依頼人は美少女」のお約束をぶち破る。美少女がいないと草野のヒロイン成分が増す現象を、とうとう白昼の下に晒された。

感想
六氷(ムヒョ)は冷酷で無情者だが有能天才な『執行人』。対して草野(ロージー)は優しく人情者だが臆病で無能。相反する二人がバランス良く交わることで、読者感情を左右に大いに揺さぶる手法は、よく考えられています。二手に分かれて行動する場面では、草野を読者視点においてホラー漫画の恐怖感を煽ることに成功しています。おばあちゃんの話だからといって侮る事なかれ。オチは十分にハートウォーミングな仕上がりです。

マニアックアイ

  • 【第三位】 回想編。カレーを食べる子供「う うまっ うぐっ」ってその顔じゃ毒殺されてるよ。
  • 【第二位】 いくら何でも駐車場のタイヤ止めが墓石は誰か気付くだろ。
  • 【第一位】 口は悪くともホントは草野が心配な六氷。「──!?」と動揺した六氷の顔に友情を感じました。

今話の草野くん大暴走
乙女だけが草野じゃない!
乙女だけが草野じゃない!
乙女とかヒロインとか言われすぎですが、それだけが魅力の草野くんではありません。中にはこんな痺れるスタイルの草野もあるんですよ。見下すような視線がたまらなく悪役です。また、草野が希に見せるジョジョっぽい姿勢もこの頃から健在!

…でも、ページをめくると……。
台無し
格好いい扉絵が台無しだ草野くん。

* 第03条 - 才能
総評
天才・六氷の過去は如何なるものか、草野を読者視点として疑問を煽った。反逆者”エンチュー”伏線も今話。

感想
序盤で六氷の過去に触れ、オチでエンチューの因縁に結ぶ構成は無駄がない。ピアノの天才・白鳥綾をクッションに、六氷の天才性と凡人を嫌う性格も明かされました。ところでムヒョロジはホラー漫画。この漫画、読者を一番怖がらせるのは被害者の驚き顔。顔が豹変しすぎてホラーッス。悪霊よりホラーッス。悪霊は第一印象だけ怖いけど、二度目からはそこまで恐怖感がない。しかしキャラの驚き顔は毎回怖い、キモい、見たくない。西先生は、例え美少女でも草野でも、容赦なく表情を崩しますよね。

マニアックアイ

  • 【第三位】 「最小年の執行人」って、だからムヒョは何歳なんだよ。
  • 【第二位】 週刊魔法律ジャーナル。世間にも売ってるのか、定価はいくらか、色々気になるアイテムです。
  • 【第一位】 変装の才能がないと指摘された、草野がスーパーハリボテテクを駆使した巨大壺。

今話の草野くん大暴走
草野くん寝起きショット
寝起きショット
さすが乙女モードの草野くん。起き抜けだけで絵になるこの存在感はなんだ。「オイロージー このヒロイニズムは どういう事だ?」ってそりゃムヒョさんも言いますよって話です。それに、「…ん …んあ?」でよだれを垂らすこの無防備さと言ったらない。さすがは草野くん、転んでもただのヒロインは演じませんよね。うっ、恐ろしい子…!

* 第04条 - プレゼント
総評
いろいろな意味で草野が本領を発揮。ページ毎に、幾通りもの草野の魅力を紡ぎ出した西先生に脱帽。

感想
登場人物を六氷と草野の二人に絞り、二人の性格を掘り下げた。六氷は自分を表現するのが苦手。言葉足らずで不器用で、意志を正確に伝えない。あるいは「残りは察しろ」と、相手に相応の能力を求めるのか。一方の草野は、天然でアホで(現時点では)才能も無く、六氷の意図をなかなか汲めないでいる。そこに誤解が生まれ喧嘩もするけど、最終的には草野が持つ無類の優しさが潤滑油となり、二人の仲は深まるんでしょう。

悪霊が単なる敵役に納まるだけなのは残念。アンティーク椅子に憑依した理由、悲哀や無念のエピソードなど掘り下げて欲しかった。また、草野が六氷に魔法書を投げるコマが分かりにくい。本誌感想でも触れたけど、コミックスでは必ず加筆修正されると期待したんですが…。ここ一番の見せ場が消化不良じゃ、あまりに勿体ないですよ。

マニアックアイ

  • 【第三位】
    草野「ムヒョからの…プレゼント…… ウフフ…
    六氷「フン… ま がんばれや…」
  • 【第二位】
    草野「な なんなのさ」
    草野、唇を噛む(ギリ…)
    草野「才能があるんだとか知らないけど…!! チビのくせに!!
    六氷「!」
  • 【第一位】
    草野「ムヒョのバカ…!!」(どす)
    草野「バカバカバカ」(どすどすどす)

今話の草野くん大暴走
よく分かる第三条のストーリー、略図解説。

起:わぁカワイイイス…
わぁカワイイイス…
わぁカワイイロージー…じゃねえよ! 男のプレゼントにカワイイ物を選ぶキミの性格が全然理解できねえよ!

承:チビのくせに!!
チビのくせに…!!
なにを言うか、キミだって乙女のくせに!!

転:バカバカバカ(どすどすどす)
バカバカバカ(どすどすどす)
どすどすの表現が乙女チックすぎますよ。イスの上でこぢんまりと怒るなんてヒロインすぎますよ。「はぁ はぁ」と身体を揺するキミがなんだかとても危険に見えますよ。

結:ウフフ…
ウフフ…
男だったら寝言で「ウフフ…」なんて言わねえよォォォォ!!!!11

* 第05条 - 看板破りのケンジ
総評
少年ケンジに悪霊と魔法律の仕組みを諭す草野。単なる設定説明に終わらず、草野の愛嬌で笑いを誘う作家姿勢は評価。

感想
二つめの魔法特例法が登場。「魔法律」なのに「魔法特例法」なんですが、後者は魔法なのでしょうか。『銀の鎧』は悪霊の攻撃の一切を保護する魔法律。そんなのあるなら、第一話から使おうよ…。第一巻の中では、この悪霊の容姿が最も恐怖しました。「タマネギとモヤシ」など、元気いっぱい小学生のケンジを相手にタジタジの、草野と六氷が微笑ましい。

しかしなんと言っても、今話の草野は前話に引き続き凄まじい乙女節を発揮。もしくは、前話の雰囲気・勢いを引きずったのか。「ばーーんっ!!」、「コホンッ」、「決定されるんだ」、「魔法律はあるんだ!!」(ギュッ…)、など、セリフも男っぽくないしその表情も乙女的。西先生、これは絶対狙ってやってるぞ…。

マニアックアイ

  • 【第三位】 今回のジャビンはカボチャの「カボチャン」。ちなみに前回は大豆の「ダイズマン」です。
  • 【第二位】 『Let's TRY魔法律』が早速の大活躍。ちなみに全18巻です。
  • 【第一位】 そんな『Let's TRY魔法律』も、ケンジの前では「なんかのゲームの攻略本」呼ばわり。

今話の草野くん大暴走
コッ コラーッ!!
コラーッ!!
コッ コラーッ!! なんだその乙女フェイスはーッ!! こっちが怒りたいです。こんな風にぷんぷん怒るヒロインなんて、もはや使い古された昭和のヒロイン像じゃないですか。

* 特別読切
総評
物語の起承転結よりも、ホラー漫画として「恐怖の演出」に重きを置いたネーム構成。絵に独創性があり、怖さの演出・表現は十分。

感想
実は赤マルの読み切りを読んだことがなく、そちらの掲載を期待してコミックスを買ったのですが…。本誌読み切りの掲載とは、無念。

連載時の画力と比較すると若干見劣りするが、草野と六氷のデザインが細部で若干違う印象で、これはこれで味わい深いです。よく言えば初々しい印象で、ファンには嬉しい絵。全面にわたって表現力の未熟さが見られ、初めての読者には少し物足りなさを覚えるかも。

後半、カヤが着替える必要性がありません。しかも服を着ず、ブラのままでアクションして、B級ホラーに影響されすぎ。無意味なお色気描写は、激しい嫌悪感に見舞われます。連載時には改善されたので、この点個人的には嬉しく思います。

内容は、依頼者・小野寺香矢が中途半端な優しさを見せた結果悪霊にストーキングされる、一筋縄には割り切れない話。嫌と思いつつも強く拒絶せず、ある程度許容してしまう現代の等身大の若者像、その複雑な心理を、上手く捕らえていると思います。これは、西先生自身「人の思いの複雑さがテーマ」と語る通りでしょう。

香矢のような性格の人間は、今の社会には多くいて当たり前だと思います。それは今の教育から学んで得た性質だったり、今の社会問題や事件から影響を受けて保身のために生まれた精神だったり。だけど、「誰にでも優しく接する」「敵を作らない身の振り方」が起こしうる害悪を、この漫画では『霊犯罪』という極端な例ではありますが、その一例として上手く表現できています。六氷は香矢がノブオに見せた心理・行動を「逃げ・保身」と察します。だから意地悪にも、香矢に保身行為の「覚悟」を見せてもらうぞ、と結論付けました。

おそらく、少年誌のメインターゲット層(特に小学生)が、こんなメッセージ性を読み取れるかどうか。個人的には、これを「読み切り」にぶつけたのは、かなり無理があったと思うんですよ。些かターゲットを外していて、だからこそ金未来杯の結果は不振に終わったんでしょう。それでも連載に漕ぎ着けたのは、ひとえに編集サイドの好意(出来レースの噂まで広まったし…)だろうし、逆説すれば「編集サイドの見る目が鋭かった」と言えます。

* データ集
魔法律

  • 第244条(第01条より)
    • 物体無断霊化+魔法律執行妨害
    • 冥王の晩餐の刑
  • 第884条(第01条より)
    • 獣性無断寄生
    • 追死の刑
  • 第881条(第02条より)
    • 人体無断寄生
    • 茨の園の刑
  • 第142条(第03条より)
    • 霊気無断大量放出
    • 蝿王の宝箱の刑
  • 第741条(第04条より)
    • 物体無断寄生+食人未遂
    • 魔王の影の刑
  • 第1212条(第05条より)
    • 大量吸血
    • 魔獄房収監の刑
  • 第102条(本誌読切より)
  • 第741条(本誌読切より)

魔法特例法

  • 第11項(第01条より)
    • 魔睡針
  • 第82項(第05条より)
    • 銀の鎧

本誌感想


ヤバイ。ジャンプ感想よりも疲れた…。