1741. 先行感想 - ダブルアーツ 最終回『君は最初から』

お風呂やトイレの待機中、キリがあれほど賢者タイムだったのは、エルー視点の物語だったからなんですね。あの姿は『エルーから見たキリ』という一面性でしかなかったと。


キリの気持ちがもやっとしていた理由
当時、キリの本心は人並みの男の子みたくドキドキのキュンキュンだったろうなあ。本心を知られて不審に思われたら「手を繋ぎ続ける旅」に支障をきたすから、極めてぶっきらぼうに、あるいは腫れ物に触るように、紳士の道を徹底したのかもしれません。

ですから本当は、キリの錐状の斬魄刀は当然ながら唸りを上げて始解しきっており、ともすれば卍解に達していたのでしょう。なるほど、エルーがお風呂から上がる頃には賢者タイムの爽やかさで対応できた事情も納得です。キリの名誉のために補足しますと、彼はそんな下品な男子じゃないとオレは信じてますけどね!

エルーがお風呂やトイレの間、彼女にはキリの姿が見えていません。つまり作中のキリは、エルーの乙女補正によるキリッ☆効果だったとも深読みできます。あの時のトイレだって、お風呂だって、ベッドだって、エルーの知らない催しが日夜開催されていたのかも。やっぱり自家発電の小刻みな動きが気になって、キリの頬を眠りながら殴り倒したのかも…。妄想はあらぬ方向ばかりに進みます。

キリの絶え間ない努力のワケは、エルーの一目惚れという単純なものでした。シンプルイズベスト。だからこそ読者に分かりやすい。「大好きな人だから守りたい」って想いに共感できる。ですが、『エルー視点の物語』という制約が、一切のラブコメ描写を許さなかったのです。エルーだけの視点では、絶対にキリの本音は描けない訳ですから。

この一点だけでも、すごく惜しいコトしてる気がします。『両思いだけど初心でなかなか合体できない』ってもどかしいラブコメがあれば、『ダブルアーツ』の冒険はもっと胸躍るキャッキャウフフな大冒険を彩ったんじゃないかと(個人的には)思うんです。

一歩間違えたら初々しい恋愛模様が展開される、その寸止めでラブコメにしなかったのは計算か天然か。そして一読者的には、そこは一歩でも二歩でも間違えてほしかった。というか一夜の過ちが欲しかった。今やフォーチュンクエストの深沢美潮先生ですら(デュアン・サークで)朝チュンを書いちゃう時代。そんくらいヤっちゃう「勢い」は欲しかったなあ。


「生活感」「ラブコメ」「バトル」のバランス性

「若い男女が手を繋いで冒険する」コンセプトは、多くの読者が目を惹いた設定だったと思うんです。今までにない斬新なファンタジモノが、少年漫画界に到来したな! オレもまた、そんな風に期待した一人でした。そして現実に、ダブルアーツは早い段階で二度目の表紙を勝ち取っていました。

その実績から見ても、当時、読者の期待値は相当に高かったと推測できます。その「当時」を振り返ると、『ダブルアーツ』の冒険には「生活感」「ラブコメ」「バトル」の三本柱が均等に居並んでいました。

  • 生活感…読者にも身近な「お風呂」「トイレ」「ベッド」で繰り広げられるハプニング!
  • ブコメ…二人が始め打ち解けたところで元彼女スイの投入。どうなる三角関係!
  • バトル…ガゼルの下っ端を撃退したが、ガゼルメンバーの一人・ゼズゥの到来で大ピンチ!

この後、キリたちは『フレア』の存在をゼズゥに知られて、物語は急転します。デオドラドの町に到着後、本作は「バトル」への比重が高まりました。多少の「生活感」は描かれたけど、「ラブコメ」に関してはずいぶん息を潜めました。

思えば『サムライうさぎ』もそうです。当初のコンセプトは『子供みたいな二人が形式的にも結婚して、この後、伍助と志乃はどんな風に愛を育んでいくんだろう』と思っていたら風雲七菜城を建築しちゃいましたからね。


「ファンタジマンガ=バトルマンガ」の高い壁

今のジャンプに「ファンタジを描く=バトルが描けないと連載を戦えない」の制約があるのは、誰の目にも明らかです。それは作者サイドの目にもです。福島先生も古味先生も、いずれは自分の作品で、ワンピナルトブリーチと、「バトル」で真剣勝負する覚悟があったわけです。

それは避けては通れぬ道、漢の浪漫というやつですね。かくして『ダブルアーツ』は、ガゼルから命を懸けてスリリングに逃避行し、戦いに次ぐ戦い。戦いのために修行して、また戦い。そして敗れました。

果たしてその敗退は今のジャンプの既成概念で戦った結果です。実のところ、『サムライうさぎ』や『ダブルアーツ』が、その作品テーマやコンセプトに基づいて、ベストのやり方で戦えたら、読者のニーズに応えられたんじゃないでしょうか。

読者が『ダブルアーツ』を買っていたコンセプトは「若い男女が手を繋いで冒険する」という部分でした。ファンタジ世界で冒険しながら、生活しながら、バトルしながら、手を繋ぎながら、見も心もフレアいながら、だけど読者は友情と恋愛を育んでほしかったんですよ。

他者と戦うことよりも、他者と触れ合う方が、『ダブルアーツ』は生き生きと作中テーマを語れたように思います。手と手や他にも色んな部位が繋がったりして、イチャイチャしたり、信頼が崩れかけたり、修復したり。そんな人間関係に期待しちゃったんです。フレアいの大切さ、他人へ積極的にと関わることの重要性を、そういった所から読みたかったです。

サムライうさぎ』の時にも強く思ったことですが、こんなにも早いタイミングで、再び同じ事を考えさせるとは思っても見ませんでした。もしかしたら、この二作品の波は『新世代の胎動』を告げているのかも…なんて感じたりも。そういう意味では、両マンガとも「連載が数年は早かった作品」だと感じました。


普段の感想に比べると、大分脈絡のない文章になったと思います。実は今回の感想、時間が無くて90分一本勝負で書き上げています。構成とか推敲とか、「この辺もっと面白くしよう」とか、一切の細工無しです。

こんな書き殴りテキストを『ダブルアーツ』感想にしちゃって、読んでくれた人も読んでなかったよって人もごめんなさいです。