1629. 衛星ウサギテレビ - 第1巻
「魔法陣グルグル」のRPG・ファンタジー。「がじぇっと」のメカニカル・ラブコメ。*1。こういった過去の作品群から培った経験を、余さず逃さずてんこ盛りに総和したのが本作・ウサテレ。
衛藤先生の多趣味な『ヒロユキエキス』が凝縮された一本です。そこいらの栄養ドリンクより、よっぽど元気になれますヨ。
- 作者: 衛藤ヒロユキ
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2007/01/22
- メディア: コミック
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RPG、漫画、ラブコメ、メカ、テクノ、オタク、ペット、ファッション…。趣味世界の日常に潜む「常識のようで奇妙なありがち」の数々に、ことごとくメスを入れます。このツッコミ魂こそ、衛藤ヒロユキ最大のセールスポイントだと思います。
ウサテレで描かれたそれは、過去にも増して冴えまくりの絶好調でした。それでいて久米田先生のような痛烈な毒素は皆無。それはなぜか? 乙女チックでソフトタッチな絵柄…これは、あくまでクッション役。本質は、作中に一切の悪意がない空気感のおかげじゃないでしょうか。
衛藤先生の描くキャラクタってどいつもこいつも憎めない。敵も味方も、どこかマヌケで愛嬌があります。そんなキャラクタ造形の集合体が、そのまま作品全体に表れているかのような空気感。衛藤作品からは毎度、人と話の「まとまりのよさ」を感じます。
ウサテレ独自の風刺ネタ
グルグルやがじぇっとは、風刺するターゲット層を絞ってました*3。その点ウサテレは、衛藤先生の多趣味世界を地で行くネタが実に多いこと。例えば、下のような感じで。
- 物語演出の風刺
- 意味深なキーワード→読者視点のツッコミ→神さま「その謎はあとでわかるの!」
- 合体の話題→イチゴ「今の話は忘れるレロ」
- イチゴの舌打ち→少年ガンガン
- テレビ関係の風刺
- (特撮番組向け)イービィ「ヒーローなら普通顔隠すよね」→オチ
- (教養番組向け)子供騙しのウサテレ体操→オチ
- ロックの風刺
- 様々な場面で多様。
- とりあえずロックと言えばカッコよくなる。*4
- メカニックの風刺
- 読者サービスの風刺
- パンチラ→飛脚
- 髪の毛やオッサンのマントは引力で捲れるのに、村娘のスカートはめくれない
- だれなんだ三兄弟
- 各方面の「ありがち」に対する風刺
- (漫画雑誌の宣伝文句)第二話表紙で「早くも大人気!」の煽り台詞
- (異星人とのコンタクト)「擬音かよ!」
- (古代文字の解読)村娘「えーとね 確か「ウサギ様は世界を救う」って」
- (必殺技の演出)ウサギテレビ編集→テイジー「あたしなにを出してるの!?」
- (コイン詰まり)なぜ無言でスマートに対応するのか、係の人は。
こう見ると、ウサテレがターゲットしたテーマは『ロック』『テレビヒーロー』『メカ』の三本柱に集約できそうです。これはそのまま、ウサテレの題材テーマともいえます。物語とネタは、見事にリンクしていたわけです。
ロック=勇者
個人的見解として、ウサテレの『ロック』は、グルグルの『勇者』と同意語です。勇者といえばかっこいい=光魔法キラキラ(かっこいいポーズ)と発展したわけで。イービィも『ロックな格好良さ』をトリガーにパワーアップするのは確実と見えます。
ニケ、鳥賀、イービィに共通して言えるのが、強くあろうとする動機。好きな子に「いいトコ見せよう!」と奮闘し、時に空回りしながらも、確実に前進してく。これは一見、動機として低俗に思えるけれど。彼らの年齢を考慮すれば、たいへんしっくりくる動機なんですよね。
『モテたい』という動機は、思春期を通過した男子だったらたいてい共感できる。だから設定としては、「世界を救うために」なんて崇高な動機より、よっぽど無理がない。身近で分かりやすい。そして衛藤先生は、これを爽やかに描けちゃう。
オヤジやフンドシやウンコには超反応するけどエロは極力抑える作家先生だから、下品になりすぎない。*6モテたいという低俗な願望を、清々しく表現できています。これも衛藤先生の才能の一つなんだろな。
魔性系ヒロイン
衛藤作品のヒロインといえば、従順で大人しく夢見がちな女の子。そんな刷り込みもあって、本作は虚を突かれました。第一話で「やっぱり」と思わせておいて、第二話で豪快に裏切ります。これ、「衛藤作品のありがち」を風刺ネタにした自演トリックのようにも見えて愉快です。
テイジーは「ツンデレ」と評されそうだけど、彼女はいわゆる「魔性系」の女の子です。普段は猫のように振る舞い、その実は気高き獣。利用するためなら百通りの表情と声色を使いこなすタイプ。テンプレート像は峰不二子。
ツンデレというジャンルは、ツンの先にあるデレへの探求精神が、人気の原動力です。対して魔性系というジャンルは、誰にも手名付かないその猛獣を飼い慣らす開発精神が、人気の原動力です。
そもそも魔性系の女は、手籠めにする前から「本性のツン」と「作為のデレ」を見破ってるわけ。今さらデレの理想だけを追っても、現実には叶いません。鳴かぬなら鳴かせてしまえなんとやら。自分だけにはデレの一面を引き出すため、これは調教のしがいがあるというもの。
魔性系ヒロインという人気のルーツは、こうした思考プロセスの末にある、奥深い趣向なのです。なかなか理解されがたいですが、マニアック層はツンデレヒロインよりも、むしろ魔性系ヒロインを好む(=非常に回りくどい萌え)のではないでしょうか。(以上、独断的持論でお送りしながら最後だけ他人行儀)
衛藤先生の新たな代表作として名残るに相応しい、ポップでロックでコミカルハートな一品でした。二巻は待ち遠しいですが、今度は何年越しの連載になるのか、それだけが気がかり。