1679. フィナーレ感想 - ベクトール編
きっとベクトールは、行方不明の禁書を奪取したり、未だ24人以上は存在する禁魔法律家を取り込んだり、この後も大きなスケールの事件へ進展する計画だったろうに…。新たなボスを匂わせる導入部は、童話タッチの独特の雰囲気が好印象だった。
ムヒョとロージーの魔法律相談事務所 17 (ジャンプコミックス)
- 作者: 西義之
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/04/04
- メディア: コミック
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打ち切りが確定したのは今編の途中からで間違いない。このためか、ベクトール編は提示した伏線や設定と、それを回収する演出・描写に食い違いが見られる。おそらく打ち切り決定時、当初の構想を曲げ、強引な新解釈をこじつけた結果だろう。当方の勘違いもありそうだけど、その根拠を述べてみたい。
ベクトールの伏線は、箱舟レベルの長期連載を見越したものが多かった。それだけに、未回収の謎が多く残ったのは惜しい。理性が飛んで仲間を襲う「呪い」の詳細。「半霊」という存在の秘密。「霊根」の能力に目覚めた理由。そして最たる謎は、「近い将来『霊根』と名付けられ」と語られた意図はなんだったのか。
「霊根」問題とは、第142条の話から、さも魔法律家の間では常識といったノリで常套句になっていたことだ。西義之先生の単純ミスとも取れる。導入部の当時は霊根が未知の存在だったとも取れるが、こちらは言い訳に苦しい。わざわざ「近い将来」と宣言する必要性がない。
そこで好意的に解釈してみる。当初の構想では本当に近い将来(北支部戦の後)、霊根が認知される予定だったと。さらに六氷の霊根は別種だと判明する展開。それが打ち切り決定で捻じ曲がり、「霊根」は常套句として扱うことになった…とか? いや、この予想でも苦しい気がするぞ。分からん…。
第143条『訪問者』の確認
洋一と優は、六氷の昏睡が「ベクトール事件と関係ない」と断言した。確かに六氷が昏睡する理由は、草野との間にある『腐れ糸』の霊根が理由だった。現時点で洋一と優は、それを知るはずもない。なぜ洋一たちは、ベクトールとは無関係と断定できたのか。この事件で眠り病が重複したとも考えられるのに。
事実、ベクトール編に入ってからの六氷は、昏睡具合が尋常じゃなかった。箱舟編で発症しなかったのが不思議なほどで、ベクトールの霊根も付いてたのではと勘繰りたくなる。この点、西先生も筆が滑ったように思えた。
しかしながら、大人の事情を勘繰ると話は変わる。この時点で打ち切りが決定していたなら、物語は可能な限りシンプルに運びたいだろう。ここは敢えて先走ってでも、六氷の件は「ベクトールと無関係」だと明言したかった。つまり、ベクトールの霊根云々に疑惑を持つエピソードを挟まず、話数を節約したかったと意訳できそうだ。
第144条『まじない』の確認
円が草野の耳を甘噛み未遂する話。もとい、これからはずっと、僕が六氷を起こしていくんだもん! の話。もとい、いや、間違ってはない。
円が「六氷の起こし方」を説いた上で、草野には草野なりの起こし方があるとヒントを得る。このエピソードは、第150条『漂流の果て』に直結する伏線。つまり今話の時点で、第150条の締め括り方は決定していたように思える。この辺では、打ち切りを匂わせる演出も見えないんだけど…。
第145条『協会軍』の確認
打ち切りが確定したのは、この回だった形跡が濃厚だ。もちろん、ベクトール編自体が打ち切り確定後にスタートした疑念も根強く抱いてるんだけど、今話は不自然なこと、事態が大急変することが非常に多い。
- 菜々が誘拐された理由は『霊媒体質』にあった。
- 風太郎は北支部のホープ、若き天才と紹介された。
- 六氷に戦力外通告書が公告された。
- 協会軍の進軍準備が始まった。
- 同刻、北支部長・虎之助が反撃の狼煙を上げた。
- 風太郎は北支部の結界を下準備していた。
(1)『霊媒体質』のキーワードが出るも、半霊の子を孕む母体が『霊媒体質』である理由は最後まで不明だった。恐らく当初のプロットでは、囚われの菜々にも大きな役割とイベントを持たせる計画があったのだろう。打ち切り確定により、誘拐の理由を述べるに留め、あとの設定は捨て置いたようで。
(2)『若き天才』とは六氷とイメージが重なる。否、敢えて被せたように思えてならない。本来の構想では、風太郎は六氷のライバル執行人というポジションだったのではないか。名前にも「六・氷」と「三・風」で類似ワードが入ってる。本部の天才が六氷なら、北支部の天才が三谷だったと。
特にこれまでは、草野の成長に着目してばかりで、六氷は孤高の天才、能力の拮抗する執行人は皆無だった。その存在が風太郎だったなら…。想像するだけでワクワクできる。これはもう、本当に今さらなんだけど。
(3)は第145条の伏線を使って、第150条の結末へ進めるための、強引なショートカットに見える。協会軍が偽りの勝機に騙されて危機に瀕したところで、戦力外通告だった六氷が大逆転という、打ち切り確定後の強引な軌道修正じゃないだろうか。その結末へ進むべく(4)(5)で展開が加速したように思える。
(5)は風太郎の活躍に関して。実はカゲと風太郎って今編、ほとんど活躍できないまま消化不良に終わった。打ち切りの軌道修正をモロに受けて、彼の活躍は諸共消し飛んだのではないだろうか。逆に今話からぽっと出てきたシューターは、第150条まで軸となるキーキャラクターへと成り上がった。
今話でシューターと風太郎の注目度が逆転している。最もテコ入れを感じさせるポイントだった。
第148条『進化』の確認
急に「セゼミ」という悪霊が登場する。彼はベクトールを実質、裏から操る軍師相当のポジション。半霊のベクトールは天才的な素質と能力を持ち合わせているようだが、どうやらオツムの方は無知で無垢。そんな彼を裏で操るのが、セゼミだったのかな…と匂わせる。実際のところは結局分からなかったけど。
やはりセゼミもまた、本来の構想ではもっと目立つ役回りを担えたはずだ。ベクトール編は結局、第150条で大霊・九苦狸を討伐した時点で閉幕となり、彼の活躍は皆無となった。
「第144条」「第145条」「第150条」は、打ち切りによる軌道修正のテコ入れ回に感じるキーポイント。セゼミもまた、風太郎と同様、打ち切りによる被害者の一人に思えてならなかった。
総評
なまじべクトールの導入部(大140条)が強烈なインパクトを放っただけに、九苦狸がラスボスというオチには思い切り肩透かし。奇を衒った意外性というより、単純にガッカリきた。本編が続けば『次の戦いこそは』で盛り上がるけど、これで完結なのだし…。
これも軌道修正の影響だろうけど、協会の総力戦として描かれながら、最終的には六氷の魔法律で片付くという。これでは最後まで、協会はお粗末な役立たず集団だ! 六氷なしでも粘り強い討伐軍の底力を見たかったな。いや、尺の関係でそんな期待は適わないんだけどさ…。
思い出のワンシーン
連載が始まった当初から、本作に対して、ずっと持ち続けていたイメージがありました。それは、「ムヒョとロージーの魔法率相談事務所」の最終回イメージです。オレの頭の中で繰り広げられる妄想最終回はずばり、下のようなセリフを、草野が六氷に放つシーンだったんです。
【コミックス16巻・第150条『漂流の果て』】
草野「……ばか なにさ… いつも偉そうなクセに わかってるの? これじゃ助けられっこないよ…! バカムヒョ おきろ… おきろ おきろおきろ おきろ…!! おきろよバカムヒョオオオオ」
六氷「ヒッヒ バカにバカ呼ばわりたあ オレもヤキが回ったか?」
草野が六氷に対して「暴言交じりで怒りをぶつける」というシーン。それってつまり、六氷の失態を草野がカバーし、励まし、再び共に並び立つまでの最終儀式に他なりません。
「おきろよバカムヒョオオオオ」と涙ながらに叫んだ草野を見て、だからオレは、ああ、ムヒョロジは終わるんだって、完全に覚悟したのです。