1634. 緊急感想 - シュガーヒーロー(第3回J金未来杯 WJ38号より)

ジャンプ感想は実に38号ぶり。ただいま、とは言いません。今回の感想は里帰りのようなもの。

WJ38号よりシュガーヒーローの感想です。この作品の感想、したくてしたくて我慢できなくて、恋しくて、切なくて、苦しくて、とても独身胸中には収めきれなくて……とうとうここへ、想いを綴ろうと決心するに至りました。感想と宣言しましたが、多くは作中セリフへの個人的解釈、推考がメインです。

「チョコバナナ バナナ抜き」
 小さすぎてバナナを感じられないが、甘いテクニックで「おいしいのう おいしいのう」と喜ばせるテクの隠語。この菓子名って実は、本作の象徴というか、小さいけど甘いテクで魅了する主人公の存在を、隠喩してんじゃないかなと。
「小さくてもスゴいバスケ」
 作中で何度も登場するキーワード。作品のメッセージ性、その核と言える。一般のモノより小さい男性読者へのエール。指先、言葉、心配りの使い方一つで、スゴいプレイは実現できるのだ!
「目の前にコートがあったらバスケする それが人ってもんだ」
 ストレートに語れば掲載も危ういが、バスケという題材で表現を緩和し、見事に事なきを得た例。一歩間違えば、保護者の方々から反発を招きかねない、本作の真意。序盤はまだまだ賢明な及川先生だ。
「155!?」「ちっちぇーなオイ」
 世間一般の共通認識を、まさしく縮図として捉えた一コマ。この後も度々、小さいだけで罵声する外野が登場する。『小さいのは悪い』という意識を読者の脳裏に焼き付け、男性読者へ緊張と不安を与えている。
「”小さければ不利”これは絶対なのさ…」
 かくして及川先生は、『小さければ不利』という現実を、読者へ思い知らせるに至る。男性諸君の淡い期待をばっさりと斬り捨てた。


チェックポイント
大学生との1on1対決、この一連の展開にチェックポイント。

俗に読み切りテンプレと言われる展開例は「登場人物の紹介→主人公が小活躍→味方陣営が苦戦→主人公の大活躍で逆転劇」となる。そして、並の読み切り漫画であれば、この対決を通して一度目の山場を迎える展開だ。

主人公だけが備える特殊技能を紹介しつつ、彼に活躍の場を与えてやる。読み切りは長丁場だから、中盤の差し掛かり際、中弛みを抑えるためにも『盛り上がり』が必要だ。けれど及川先生は、敢えて『主人公が小活躍』の過程をスキップした。

読者は過剰なストレス、フラストレーションを受けることになる。それだけに、最後の大活躍さえ決まれば、そのカタルシスは相当量に上る。中弛み防止か、カタルシス強化か。及川先生は後者を選択した。よほど自身の作品に「魅力あり」と自身を持っているのか? いずれにしても、これは強気な選択だと思う。

そして、オレ達は忘れちゃいけない。及川先生と同じく『読み切りテンプレ』を捨てた、並みの手練じゃないジャンプ作家が、以前にも存在したことを。この手法は、今やかなりの伝説漫画と名高い「斬」の読み切り時にも利用されていたのだ! その類い希なきセンスに左が全身やられたぜ杉田尚先生!

「身長差が本当に響いてくるのは高校から先のレベルなのさ」
 少年誌にとって「高校生」とは『成長者の象徴』と捉えるべき。つまり、この台詞は素直に意訳すれば、「大きさがホントに響くのは、真に大人のカンケーを知ってからなのさ」とでも捉えようか。及川先生、手厳しいよ!
「高一のくせにずいぶんテクあるなぁチビ」
 いわゆる歳上男性の皮肉なのか!
「もっと戦り合えたのになぁ せめて170cmくらいあればさ」
 強気に誘ってきた! ひゅう、オットナー。
「155cmで戦ると もっと楽しいんですよ バスケって」
 ここいらになるとそろそろ読者も、「これってバスケのこと…言ってるんだよね?」という違和感に、気付き始める頃だろう。「バスケという言葉の奥に隠匿された真実があるのでは?」と。「バスケ」という言葉を、それ相当に読み替えて読み進めると……いちいち深いネームだ。
「エースどころか…… スタメンでもない――」
 「エースどころか…… モテメンでもない――」とでも言いたげな及川先生。
「も… もう少し伸びたら良かったのにね…」
 ここ以降、ジョシコーセーの熾烈な言葉責めが突き刺さる! モンスターカード、オープン! ずっと桃のターン!
「身長――」
 このシーン、ショックを受ける要の表情が悩ましい……。
「ゴ… ゴメンねあたしさ… ゴメン 昔みたく簡単に言っちゃってさ」
 何度も謝られると、逆に精神的にへこむことってあるよね……。
「”小さくてもスゴイバスケ”なんてさ―― 子供の頃の話よね」
 「えーマジ小さくてもスゴい!?」「小さくても許されるのは小学生までだよねー」「キモーイ」「キャハハ ハハハハ」「もうやめて! 要のライフは0よ!」
「ずっと支えだったさ 桃のセリフ…」
 過去、小さい自身に悩んでいた要。しかし女の子の応援で自信を持ち、テクニックを磨いていった。要がテクを磨いた背景を彼の心境から察すると、すごく納得感がある理由付けだ。
「うおおっデケーっ!! 全員180cm以上あるんじゃねーか!?」
 対するはデカブツ大学生の登場! こ、こいつは……かなりデカい!(くわっ)
「さすがは大学生 上手いのは認めるよ」
 そろそろ及川先生は筆がノって、物事をオブラートに包まなくなってまいりました。
「今 足りないものは―― そう― 自分がやれるという絶対の自信 大きい”心力”さ」
 及川先生が読者に知らしめたいメッセージ。小さいといって自信を喪失せず、心を強く持とうぜ! 自信があれば雰囲気作りも上手くなるんだぜ! 的な何かだ。
(か… 要―― な…なんか… デカく見える――!?)
 こ、こいつ、小さいくせに、おっきくなっちゃった!(笑)
(一番小さいくせに 一番大きな覇気…)
 それが試合(ゲーム)を支配するとでも言うのか、及川先生っ!
「ユニフォームって… 貸してはもらえませんか?」
 「コンドームって… 貸してはもらえませんか?」*1
(眼が― イッてますよ…?)
 イッてるのは眼だけであると祈るばかりです。少年誌だけに。
(この感じ昔と同じ…)
 「ゴムちょーだい 決めるから」
「ぜひ2ケタくらい取ってほしいもんだねぇ…」
 テクニックがあれば2ケタを取るくらいなんのその。
「おおっ なんかすげー小っちぇーのが入ってんぞ!?」
 「小さくてなんだか分からなかったけど、あなたの、いつの間に入ってたの?」とでも言いたげだー! しかしこの作品は、いちいちギャラリーが良い仕事してるなあ。
「ボールごと通した!? 股下ぁ!!?」
 脅威のテクニック! ぼ、ぼーるごとポールを姦…貫通!!?
(いかすかよチビぃ!!)
 ひゅう、オットナー。
(俺がリングに近づけば近づくほど どんどんリングは遠くなる―!)
 言わずともかな、リングとは女性の象徴のこと。オレらのおっかないボールを強引に近づければ自然、リングは嫌がるもの。だから相手がねだるまでシュガーを配るという戦術だ。「リング危うきに近寄らず」は現代でも名言。
(無理とか無駄とか駄目とか何を言われようと迷いはない)
 だけど正直、こんな言葉を女性から投げられちゃ、再起不能も時間の問題だと思うよ。ここを感情移入して読んでしまったオレは、思わず下半身がキュン……ってなったもの。そういうとこ、要は『小さくてもスゴいプレイヤー』だと尊敬できる。「尊敬できる主人公像」ってのは、作品人気の生命線。及川先生は腕の良い作家先生になれると思う。
「スゲーぞ!? あの小さいのスゲーっ!!!」
 このカタルシス、スゲーっ!!!
「長い控えの時期は苦しかったと思いますが その間も必死に努力していた結果だと思いますよ」
 一人で必死に努力していた時期のことは言わないであげて先生! だいたい、スタメンになっても一人で努力する機会ってケッコー多いよ先生!
「あのちっこいのが入ってから… チームが動き出した感じだ」
 ちっこいのが入ってから動き出した『感じ』だ――って、つまり……。そんな感じがするだけで、やっぱり実態は掴めないんだ!? そんなとこまでリアリティ出さなくってもいいじゃないか。キュン……ってなるじゃないか。
「要っ!! くれぇっ!」「ぬ…抜いたぁーっ!!!!」「お…… 大きい……」「入ってたまっ――」
 終盤にかけてセリフ回しがエスカレートッ! だめだ、及川先生が止まらねぇーっ!
「スーパーダンクーっ!!!」
 すんごい大きい人のスーパーダンクでリングの中にボールが入ったー! そして大団円!


…って、あれ……? 小さい人の立場は……?

*1:仮に貸したとして、それをプレイ後に返されても……。