1458. 先行感想 - Mr.FULLSWING 最終話 「同じ空の下で」

今日まで、好嫌偏らず中立的な読み方で追い続けたMr.FULLSWING。それなりに先行感想も挟みましたし、五年も読んでると愛着も沸きます。最終回ともなると、名残惜しい気持ちも生まれます。

当初はギャグ漫画の風貌でスタートしたミスフル。「ヤキュウケン」「雄軍・賊軍」辺りからはスポ魂の色も表れ、「トンデモ野球+ギャグ」という現在の礎を築きました。『十二支』になぞった名前のレギュラーが出る度、どんな珍妙なキャラが登場するかワクワクした時代が、オレにもありました。


初期のミスフル戦略
リアルな野球に拘らず、『変則ルール』に偏っていた序盤のミスフルは、戦略的に成功したと言えるでしょう。野球そのものの魅力はひとまず置いて、キャラクタごとの魅力の表現や、特殊能力の演出に専念したのです。結果、キャラクタ人気がそのままアンケート票に結び付きました。


本予選までの見所
十二支のレギュラー陣を揃えるまでは、ひたすらキャラ人気に頼った筋書きを繰り返します。変則ルールの野球を次々投入し、個性の強い新キャラが続々登場しました。最初の「猪」の人があまりに人気薄だったので途中で名字を差し替えるほど、鈴木先生の「キャラ人気戦略」は徹底的でした。

やがて十二支のレギュラー陣が揃うと、本編は「練習試合20連戦」へ。全くのシロウトだった猿野や、一年生レギュラーが成長する過程を主軸に添えました。後にミスフルの修行は、著しくインフレ化して人外のモノとなるけど、当時の修行は素直に楽しめる内容でした。

修行編の総仕上げとなる「華武戦の半限野球」は、再びアブノーマルなルールを設定に。この特殊ルールも、華武高のキャラ掘り下げのためだけに用意したモノ。「キャラ人気=アンケート票』の再来となる、ミスフル人気の呼び水になったと思います。

この辺りが、ミスフル人気のピークだったと思います。


ミスフルの変則野球
ミスフルの変則野球は、例えば「アカギ」の特殊麻雀みたいなモノ。野球という枠からいくらか逸脱しても許される世界。様々な必殺技もフィクションと容認される世界。そんな『スーパー野球』の舞台でこそ、ミスフルの野球は楽しめたのだと思います。


ミスフルの通常野球
裏を返せば、ミスフルに通常ルールでの野球は場違いという事です。事実、甲子園の本予選からは、本来の野球ルールが足枷となり、徐々に人気も低迷(掲載順の下落)しました。

変則野球としては容認されたミスフルのプレイスタイル。しかし、そのスタイルを通常野球に持ち込むと、途端に「変態スポーツ」へと変容するのです。登場人物の特殊能力があまりに奇抜なので、現実と物語に大きな違和が生まれるんです。


ミスフル野球の弱点
ミスフルが通常ルールで野球すると、各選手の能力と打順から、ある程度物語展開の逆算ができます。特にミスフルのキャラクタは、攻守投走の役割がくっきり分布しているため、他の野球マンガに比べて分かりやすい筋書きになりがち。

  • 敵チームの打者二巡目となる4回表で味方ピッチャーは交替する
  • 味方チームが序盤で得点すると、高確率で逆転される
  • だけど猿野のHRでだいたい逆転する
  • 9回裏、打順を猿野に繋ぐにはヘッドスライディングの内野安打しかない
  • 蛇神先輩の眼力は最強すぎる(お笑い要素的にも)

…など、単調な試合運びが多いんです。また、『ピッチャーとバッターの戦い』がメインになりすぎた結果、戦略的な駆け引きは希薄でした。これ、バトルマンガで例えると「パワー&必殺技のゴリ押しバトル」なわけ。『知略戦』が少ないので、結果が読めてしまう。分かりやすいから子供ウケはいいけれど、飽きやすいというか…。

この辺の『盛り上がりに欠ける試合』は、ミスフル最大の弱点でした。その原因はやはり、ミスフルが通常野球を続けたことにあると思います。超能力には、それに応じた制約がなきゃ。


県対抗総力戦
県対抗総力戦に入ってからは、ギャグも野球も必要最低限に抑え、ひたすら伏線回収に走りました。これには多くの読者が愛想を尽かしたでしょう。十二支はあのまま本予選決勝に進み、犬飼・辰羅川・御柳の大神伏線と、牛尾・屑桐の過去伏線を順次昇華消化しても、問題なかった気はします。

ただ、県対抗編からの伏線消化が実に丁寧だったので、今ならば”あの奇行”も受け入れられそうです。おそらく編集サイドから早期打ち切り勧告があったんでしょうね。でも、県対抗編に入って以後、ハンター・Dグレテニプリべしゃり暮らしの相次ぐ休載のおかげで、今まで生き長らえたのでしょう。

しかし何というか、雑誌の影響で十二支がセブンブリッジに負けたと考えると、作者的にも読者的にも憂鬱になれます。


最終回
尺が二話ほど足りない気がします。主人公である猿野は兄とキッチリ和解してないし、あれだけ期待を持たせた母親の登場も、最後に一度叫んだだけ。哀愁があって良いかもしれないけど、犬飼や屑霧の伏線消化が丁寧すぎたために、すこぶるバランスが悪いです。

『空蝉』の修行も、未完成のままじゃなかったっけ?(記憶不明瞭) 三人ともフツーに使いこなしてたけれど、試合中に『空蝉』を完成させるなどの見せ場は欲しかったなあ。犬飼のバッテリーも辰羅川がキャッチャーじゃないとバランス悪かったし、『ベンチ外の選手と入れ替えあり』の伏線も未使用。(もしや華武の二番手ピッチャー・帥仙が伏線消化だった?)

一年レギュラーが成長したエピローグは、このマンガの愛読者にとって大変味わい深い結末だと思います。優勝旗は心にしんみり染みました。三年生になった犬飼や子津が、一体どんな大秘球を投げたか気になって仕方ないですけどね!

最後に一つ。蛇神先輩はあれほどの眼力を持ちながら、プロ入りせずに寺籠もりなんてあんまりだ!