1290. 武装錬金ピリオド
武装錬金が完結しました。ファイナルの感想はこちらにて。
本誌連載中は絶え間ないエールを送りながらも、一方で和月伸宏先生の「週刊連載の限界」と、作風が「少年ジャンプの客層に馴染まない」ことを目の当たりし、泣く泣く諦めたものでした。とは言え、我々大人層は武装錬金を見捨てたわけではありません。週刊連載が終わり、夏の赤マル、そして今度の赤マルで有終の美を飾るまで、ファンは最後まで寄り添い応援を惜しまなかったことでしょう。
そのピリオド、あまりの素晴らしさに声が出ない代わりに嗚咽を漏らすほど圧倒的な完成度でした。和月先生はたっぷり時間を使って一話あたりに全力を注ぐ、月刊誌向きの作家ではないでしょうか。これは、秋の読み切り「エンバーミング」の完成度の高さからも感じたことです。コミックスのコメントからも、氏の几帳面で真面目な性格は見て取れます。ここはひとまず週刊連載を引退し、作家人生を長く生きて頂きたいですよ。
感想へ入る前に、軽く小ネタを洗っておきます。
- 斗貴子さんフィギュア
- ONE PIECEのナミさんフィギュアの際、パンチラに一切触れない集英社のグッズ宣伝が注目を浴びました。その集英社、今回ばかりはあれがあざとすぎたと認識したのか、斗貴子さん直々に「エロスはほどほどにな」と釘を刺しています。『足下まで原作イメージで固め、死角なし!』って、こんなフィギュアを購入するお客様が本来期待する死角なしは、原作イメージじゃなく、スカートの中一点じゃないですか。
- ドラマCD
- ドラマCD発売→声優系ラジオ番組の開始→グッズ展開が盛んに→GBかPSPでゲーム化→深夜アニメ化→再殺編OVA化→PS3で完全版ゲーム化 …という流れが見えてきました。メディア展開の成功って、大抵はアニメの完成度に依存しますけど。
- コミックス最終巻の読切
- コミックスだけの特別読み切り、どのキャラに白羽の矢が立つか非常に楽しみ。ついに毒島の素顔の秘密が明かされるばかりか、火渡との恋がブレイブ・オブ・グローリーの熱度で炎上する! なんて内容…だといいなあ。だけど毒島の素顔は、秘密のままそっとしておいてくれるのが、やはり一番嬉しい。「目撃者の話では、実は可愛いと戦団内でも評判」くらいでとどめて欲しい。
疾走する世界
ファイナルで魅せた、エンバーミングで魅せた、物語の『駆け抜ける疾走感』は本物だった。65ページという窮屈な束縛の中で、だからこそ和月先生は構成力・表現力・漫画技術、持ち得る全てを凝縮できている。
例えば漫画の完成度、芸術的な構成展開、物語通しての収束力。どれもこれもが鬼才を放つ。65Pの限定空間に、一切無駄なく迷いもみられない。まっすぐ結末だけを見据えて描けている。描きたい作品だけ、読ませたい想いだけ、残したい芸術だけを、専念して描けている。
こうなると「もっとページ増やして欲しかった」「和月先生は項数が足りてないのでは?」などの意見は、逆効果になりかねない。極限まで高密度に凝縮されたこの濃度。増ページで薄まるくらいなら、いっそ65P(約4話分)が一番好ましい。
確かにページ足らずが原因で、設定&展開の細部には突くとポロポロ破綻が見られる。しかしながら、怒濤のクライマックスの前に、それらはほんの些細な小石にすぎない。寧ろ、和月先生が作家魂を燃やしエネルギッシュに疾走するこのスピード感を、僅かばかりも削られたくないのだ。
まず一読目。オレの意識は作品世界へ強烈に引き込まれ、冷静に内容分析する理性など、完膚無きまで破壊された。矛盾や破綻に目を向ける思考の隙も与えられない。ただただ本能が続きを欲する獣の様な状況。24歳にもなって、漫画にこれほど引き込まれ、笑顔で涙して、幸せを共感できるとは。映像作品でもゲームでもなく、静止画と文章の集合体でここまで「してやられた」のは、本当にほんとうに久々でした。
泣かせ演出の波状攻撃
物語前半は、唯一無二の存在を失った斗貴子さん、そしてパピヨンの物語。前半は人物視点を巧みに切り替え、斗貴子やパピヨンの「本音明かし」を極力引っ張り、感動シーンまでの溜めの効果をもたらした。
斗貴子さんサイドは、早坂姉弟や剛太に視点を移して、客観的に斗貴子さんの心理へ迫っている。こうして、斗貴子さん自身がカズキへ言及することを防ぎ、「斗貴子さんが本音を漏らす」という泣き袋*1を効果的に溜めている。同時に三人のキャラ掘り下げ・見せ場を持たせた一石二鳥の処理は、まさしくベテランならではスキル。
パピヨンの煽りに反応し、斗貴子さんが「カズキの代わりなどいない」と静かに悲しむ。ここで斗貴子さん本音語りによる「泣き袋」投下爆撃の第一波が押し寄せる。しかし、これはなんとブラフだった。
斗貴子vsパピヨンの決戦の後、パピヨンの本音(白い核金でカズキを人間に戻し決着を付ける)が発覚する。読者に見え透いた「斗貴子さんで泣かせ演出」は、パピヨンの秘密明かしで感動を狙った陽動なのでした。思わぬ伏兵に唖然!(ジャーン ジャーン ジャーン) 「泣き袋」投下爆撃の第二破の到来!
しかししかし、パピヨンの秘め事さえも、実は泣かせ効果の据え膳に過ぎなかったのです。斗貴子とパピヨンが決着する前半までは、ヒーローを失い、絶望と陰湿と悲哀に満ちた絶望の世界。その世界が、次の見開きで一転するのです。
山吹色の綺麗な光
これほど効果的に、心揺さぶられる見開きを演出できるとは。和月先生の筆は紛れもなく本物だ。山吹に輝く満月を中央に皆が「あれは」と呟く中、斗貴子さんは過去エピと重ねて「山吹色の綺麗な光」と、まさしく希望の光を目撃する。きたこれ本陣。泣き袋の主砲は、斗貴子さんの心理でもなく、パピヨンの秘め事でもなく、過去エピソードに回帰したカズキへの希望でした。
前半パートが絶望の世界なら、「山吹色の綺麗な光」の見開きを基点に、後半パートは希望の世界を描いています。そしてここからは、さすが本陣の攻撃力。泣き袋の主砲が唸るぜとばかりに、ファイナルからおよそ半年に渡って溜めに溜め続けた泣かせゲージを一気開放。
武装錬金ピリオドの泣かせ演出の主砲が波動砲だった件。感動シーンの波状攻撃です。撃沈です。木っ端微塵です。もうすぐ25歳で四捨五入したら30のいいオッサンが、顔を涙でぐちゃぐちゃにして嗚咽漏らしてボロボロです。引かないで下さい。
絶望から希望へ
例えば「登場人物が死ぬ」ような、悲しみに暮れた絶望で客を泣かせるのって、あざといなって感じます。ピリオドの前半のノリもまさにそれ。だけど武装錬金の泣かせ演出は、ひと味違った。絶望に落ちた登場人物達の心理を読者に理解させた上で、希望を抱き始める登場人物を見せる。この手法で、読者を笑顔にさせながら泣かせてきました。
幸せな気持ちで一杯にして泣かせる。これは非常に気持ちがいい! スポーツで大会に優勝したような、好きな人に告白してOKもらったような、爽やかで清々しい感動の部類。一度どん底を見せたからこそ、後半、怒濤の希望オーラに溢れ、完全に当てられてしまいました。
ここからのオレは、ほんのちょっとしたことで泣いてます。
- 千歳お姉さんの武装錬金が「バールのようなもの」じゃなくて泣きました。
- 千歳お姉さんのペンタブレット型レーダーが年甲斐もなくキュートなデザインで泣きました。
- 元祖・ジャンプの乙女美少女毒島が、ついに最後まで素顔を秘匿できたことに泣きました。
- 火渡と毒島の武装錬金が合体、むしろ火渡と毒島が合体というありがたさに泣きました。
- 照星さんはがどれ程の地位にあるのか説明なしに、妙に強気すぎる発言の連呼で泣きました。
- バスターバロンが大気圏突入角を完全無視しても泣きます。硬そうな甲冑にバックパック背負って、身体も曲げられそうになく、どうやって方位修正するのかツッコミながら泣きます。*2
- カズキが斗貴子さんを発見した時も「あれは」と呟く『「あれは」シンクロ現象』は狙ってるのか作家の天然なのか、もやもやした気分で泣きました。
- 宇宙空間でシルバースキンのハットが脱げて危険なのは演出ということで泣きました。
- ハットが脱げなかったらカズキとブラボーの抱擁になるバッドエンドな図だもんね、と言い訳をこじつけて泣きました。
- カズキvsパピヨンで墨画タッチの最終決戦、初戦の描写とシンクロしていて泣きました。
- カズキが地球に戻るまでパピヨンはバルスカ刺さったままだった事に笑い泣きました。
- ヴィクトリアの指摘「超人」が伏線となった「蝶人パピヨン」への昇華が見事で泣きました。
- パピ(ハート) ヨン(ハート) 蝶サイコー! ロッテリヤ店員の再登場に泣きました。
- カズキと斗貴子さんの「武装錬金」。彼女の主張が「キミが死ぬ時が私が死ぬ時」から「キミと一緒に生きていく」へ。ネガからポジへの決意転換に物語の帰結を感じて止まず、泣きました。
- カズキと剛太の「武装錬金」。「笑顔が戻るならオレ何だってします」の失恋、そしてカズキと今度こそ固い握手で戦友を誓う、格好よすぎる剛太に泣きました。
- カズキとパピヨンの「武装錬金」。初戦でパピヨンから「偽善」と訴えられた難問に、カズキらしい二度目の決着と答えをみせ、これにて武装錬金・完! という雰囲気に泣きました。
- カズキの「武装錬金」。日常を守るために非日常に身を投じ、自己犠牲してまで勝ち取った日常に帰って行く、作品性としても見事なまでに綺麗にハマる結末に恐れ入って泣きました。
- 週刊少年ジャンプの最終回では、扉絵のキスがラスコマと繋がる演出だったので、今回のウエディングドレスもラスコマと繋がってると期待したら単に和月先生がストロベリたがっただけというショックで号泣しました。
おわりに
ピリオドや武装錬金に関しては、もっともっと語りたいことがありました。伏線回収ネタ、未回収伏線の話、ピリオドの些細な穴、各キャラに対する事細かな意見・感想なども。…しかし、どれも語ると、とんでもない文量になるので、この辺にしておきます…。
なお、とりとめが付かない「武装錬金ピリオド」については、一月中*3に開催いたします『スノウムレイディオ後夜祭 〜bonus truck〜』でも、有無のムーさんとたっぷり対談する予定でいます。
詳細については近日中に、公式サイトにて情報を開示いたします。後夜祭は、年末年始のスノウムのように予定びっしりで喋り倒し…という雰囲気ではなく、だらだらとぐだぐだと、BBSにゆっくり反応ながら冬の夜長(?)を楽しむつもりです。その他、年末年始では扱えなかった読み切り漫画の話題も取り扱います。
前々回、そして前回の反省も踏まえて、今回はくれぐれもお上品な内容で、皆様のお耳にお届けする所存です。もしも都合がよろしければ、ご試聴・ご参加のほどを宜しくお願いいたします!*4