1677. フィナーレ感想 - エンチュー編

ティキを命賭けで足止めする毒島さん。エンチューを命賭けで説得にかかるペイジ。通行証の融合を目前にして来訪したフリオ。どのパートも「必要十分」が凝縮されており、すべてに無駄がない。箱舟クライマックスを飾るに、高度の緊張感を維持し続けた迫力の展開だった。

コミックス15巻は名言・名シーンが盛りだくさんだ。ジャンプ読者にして、この巻をまとめ読みしないのは非常に惜しいと思う。ムヒョロジならではのセンスがぎっしり詰まってると言えばしっくり来るかも。

ここでは、今編の名シーンをすべて言及することは難しい。そこで、激しく感情を揺さぶられたシーンについて、個々に感想を残すことにする。ムヒョロジのコミックスを持っている方は、是非とも、本を片手に取って眺めていただきたいです。


毒島・梅吉の覚悟
コミックス15巻・第123条『決意』より。

イリ「騎士道とは守るに死する道 今 己が生くるも守られ生かされた証 守られた生命 守るために使うは 騎士の務めと思え」
梅吉「重ね重ね まったくもってその通りじゃ イリ殿…!!」

毒島と梅吉の能力を賭して、『使者憑依』の禁じ手を払い挑んだティキ戦。

ここまでに度々語ってきた通り、魔法律バトルは「インパクト重視」で勝敗が決する。だから『想い』の強さは、そのバトルの勝因にも直結する。上に語られたイリの言葉は、梅吉に感情移入した読者の胸中に重く響くものがある。梅吉がティキを圧倒する場面を、『想い』の強さで説得させた屈指の名シーンだった。

ムヒョロジという作品を飛び越えて、胸の内に記録しておきたい名台詞だと思う。当時、このセリフを読んだときは、心に深く突き刺さったものだった。


フリオとティキの弱点
コミックス15巻・第126条『呪い』より。

理緒「心まで操作されてないのに… なんで抵抗しないの!?」
フリオ「君はそんなだからテコ入れされたのさ ボクなんてもおね」
フリオ「運命だって諦めてるんだ

対して『想い』の弱さが敗北を導いた例がこちら。フリオの諦めの良さとは、箱舟への忠誠心の低さに繋がる。ティキが魔王降臨の刑に処されたシーンで、フリオの身の振り方を見ると、話は早い。

ティキ「フリ…オ 今呪えば…!!」
フリオは「ダメダメ魔王だよ? 僕もう降りるよ…!!」
ティキ「ク ソ…」

フリオは利用しやすそうに見えて「想い」が弱かった。味方サイドの想いの強さと、敵サイドの想いの弱さ。この対比を、西先生は意図的に描いていたのかは、正直微妙だ。しかして800年間も暗躍したティキが、簡単に滅んだ説得力は帯びていた。


ペイジの想い
コミックス15巻・第124条『絵空事』より。

ペイジ「一つだけ答えてほしい 「執行人になるために一番要るものとは?」」
(中略)
ペイジ「正解はね 人を思う心……!!」

一連の語りかけの中で、六氷にあって円になかったもの、執行人になれなかった理由の核心が語られた。イサビ編でペイジが死ななかった理由は、この説得シーンが控えていたからなんだな…と。当時から予想はしていたけど、期待した場面が再現されて一つ胸をなで下ろせた。

円がいつまでも六氷を恨む理由は、ティキの呪いの所為なんだけども。あの当時、円がティキにそんなお願いをしたのは、やはり円の「心の狭さ」が所以してるのだと思う。ペイジの説教はズバリ、円の急所を突いたことだろう。


優の想い
コミックス15巻・第129条『変わらないもの』より。

優「魔法律学校の頃―― ボク アイツのペン何度もタダで直させられたんだ これからだって!! タダで直して ああげなくもないのに ごれじゃあ も゛ も゛う゛…!!」

ここからはもう、怒濤の涙腺崩壊シナリオ。感想書くために読み直してたのに、あれ? 目から水が……。

優は、愛する師匠・理緒先生を巻き込まれた恨みすら飲み込んで、ここまで円を受け入れようと思い直して、このセリフを吐いてるわけなんだ。当時の魔監獄編で、優をここまでテコ入れする予定があったか怪しい。例えば「優と円は同級生だった」という設定が、後のこじつけだったとしても。それを逆手にとって、このクライマックスで上の言葉を用意したのは、ニクイ演出だわ。すごく魔具師らしいし、ちょっとツンデレな所が鼻の奥をツンとさせる。


洋一の想い
コミックス15巻・第129条『変わらないもの』より。

洋一「なんでオレに一言も相談無しでグレてんだよ!! ―言ってくれねぇと分かんねーよ オレ バカだし… てゆーか… 言えよ オレ等ってさあ ダチなんじゃねーのかよぉ…!!」

ハイきましたよー円の親友筆頭。ダチに暴言吐いて説教するつもりが、途中から謝っちゃうんだよ。その辺がもう、ホント洋一らしい。あれ? 目からお湯が…。

2年間、遊びも勉強もせず、休暇もなく、エンチュー捜査に従事していたという洋一。友達を取り返す一心で、自分の地位や将来も殴り捨てて行動していた熱意が、上の言葉に集約されている。そっかお前、説教したくって、謝りたくって、ずっとそんな想いを抱いて円を探してたんだな。洋一はずっと、自分のバカを『後悔』をしてたんだ。普段はちょっと軽い奴だからこそ、ギャップで来るモノがある。

六氷の想い
コミックス15巻・第130条『長い悪夢』より。

円「天才の君に分かる? 大事なものを 失うという 苦痛が――」
六氷「もういっぺん言ってみろ… 苦痛が分かるかだと? テメェはオレにどれだけ心配を…」

そして最後は大本命。洋一以上に「ギャップ」性で攻めた六氷。円が鉄板のフリをかましたおかげで、六氷からとんでもない想いが溢れちゃった瞬間だ。冷徹クールな彼がここまで素直に、相手を思い遣る言葉をかけるなんて! 正直、まったく想像できなかった! 予想だにしなかった! あれ? 目から熱湯が…。

「もういっぺん言ってみろ…」に積年の想いが詰まってる。だめだ、六氷の気持ちを今ここで、深く詮索しちゃあダメだ。なんで自分から歩み寄って泣こうとしてるんだオレ! この後、円自身が言ったとおり、六氷は口べただから憎まれ口しか叩かないんだよね。その憎まれ口をひっくり返した部分に、六氷からの「まっすぐな真心」が透けて見える。

新しい魔法律書のときも、通行証のときも、非常識に無茶して、命を賭けて頑張ってたんだけど。それは周囲の仲間を傷付けないために、気を回した行為でもあったのだけど。実のところ、最終目標である『円救出』のための、身体を張った頑張りでもあったのか、と無駄に深読みしてしまう。「テメェはオレにどれだけ心配を…」ってところで、それこそいろんな妄想が駆けめぐった。


草野の想い
コミックス15巻・第130条『長い悪夢』より。

草野「ムヒョはね ムヒョは… ジャビン読んでても ボクがしかってても きっと寝ててもずっと 君を忘れた事なんて一度もなかった…よ…!!」

六氷の気持ちを代弁する草野。しかしてその言葉は、六氷が胸の内に溜めておいた想いと違わない。あれ? 目からマグマが…。

というか、ここは邪推にも乙女展開的に読み替えたら…。草野のここでの心情は、想像するとすごく胸が苦しくなるよね。この場面ではもう確実に、『草野→六氷→円』のフローになっていて。草野だってホントは『草野→六氷』なのに、だけど草野の口から『六氷→円』なんだよって核心を語っちゃうという切なさ炸裂の一言なわけで。(矢印の意味は深く考えるな!)


六氷と草野
コミックス15巻・第130条『長い悪夢』より。

円「変… なんだ… ぜんぜん沸いて… …こないんだ 僕 誰も憎くなくなってる…!!」
草野「ムヒョっ ―おつかれっ…!!」
六氷「…ヒッヒ おまえもナ」

罪も罰も消えないけど、ティキの呪いから切り離された心は浄化された円。ここでのムヒョロジコンビのやり取りを読むと、オレはいつも第14条『となり』の「いわれなくたってついていくもん」宣言を思い出してしまうんだ。

あれ? 涙腺が筋肉痛に……。