349. 第33回 - 友の死 前編

昨日の感想も合わせてどうぞ。

本日は人物別感想です。人物別の感想ですが、内容が濃かったので人物別の中でシーン別の感想になってます。おかげで分量が長い長い。勘弁して下さい。

近藤勇香取慎吾
総司に山南さんを追わせ「見つからなければ帰ってこい」。このシーン蛇足な気が。先週ラストで土方とアイコンタクトし総司に追わせると決めた意味を、わざわざここでもう一度解説しなくても…と思ってたんですけど。ブログを見回したら、先週時点で『総司に追わせる意図』が伝わらなかった方がむしろ大多数だったようです。んー、それならばわざわざ丁寧な解説も必要ですか…。

 山南さんが屯所に戻り、近藤局長に本心を語る。それを受けて「こうなる前に、あなたの思いに耳を傾けることができなかった自分を恥じ入るばかりです」と。ほんとそうだよ! あんたが外ばっかり見て内々事情を土方に任せっきりだから、心がバラバラになるんだ! 永倉反乱の時と同じ過ちしてるじゃないか! 皆は新選組や土方のためでないんだ。近藤局長をただただ慕っているヤツらなんだ。近藤さん、あなたは皆の本音に耳を傾け、時には無邪気に楽しく酒を交わして腹割って話せば、それで永倉の件も今回の件も大事にならず済んだ話なんです。土方のやり方は間違いじゃない、新選組は今のやり方じゃないと大きくならない、だけど内々を土方に任せっきりなのがダメ。人と人との繋がりを固められるのは、底知れぬ包容力を持つ近藤勇にしかできないことなんだと思うんですよ。

 で、上のセリフの後障子を開き山南に背を向けます。山南さんどうか逃げて下さい、というメッセージ。しかし山南さんは障子を閉め近藤さんの好意を蹴る。永倉反乱の時には事が起こった後でも間に合ったけれど、あれとは対照的に今回は遅すぎたんです。

 局長としての顔。山南さんを慕う隊士が次々に助命嘆願。それを見る近藤さん、本音じゃ一緒に助命嘆願したいでしょう。局長の顔はそれを許すことができません。そして同時に、皆の前で泣くこともできない。何度も何度も涙を堪えて、歯を食いしばり、一度は泣き落ちそうになるがそれでも堪えます(ここは永倉・原田・島田に目撃されたけど)。ついに切腹の時まで私情を我慢し涙を堪えきった、局長=パブリック面の近藤さん。

 夜更け、茫然自失の中。伊藤が山南追悼の句を詠み、ここでとうとう「あなたに何が分かるというのだ!」と吠える。『新参者に俺達の気持ちが分かってたまるか!』おそらくそうした意味でのセリフだと思います。この時、近藤さんは局長(パブリック)の面が剥がれてしまいました。近藤勇としての一人間(プライベート)の本音が漏れてしまったのです。伊藤が立ち去り、その後土方と顔をひしゃがませてむせび泣き。近藤は局長、土方は副長という立場を完全に切り捨てて、ここではただ一人の人間として『友の死』を悲しんだのでしょう。

 伊藤にぶち切れた近藤さんのシーン。初見の時、オレは「おいおい、いくらなんでもそれは言い過ぎだ」と思いました。土方や他試衛館生え抜きの面々は、谷や武田や伊藤をいつまでも新参者(よそ者)扱いしています。こんなことをしていれば、結局は仲良し集団のままじゃないかという疑念がありました。そして今回、近藤さんも伊藤をよそ者扱いし、しかも偽善であろうとも善意で読んだ句に対し怒鳴り、なんだそれ?って思いました。けど、二度目に見た時の印象は全然違いました。あの時(夜更け土方と二人で居た時)近藤さんは、丸一日局長としての仮面を必死に被り続け、既に限界を超えていたんでしょう。伊藤さんが現れた時には、近藤さんは局長ではなく完全に素の近藤勇状態(プライベート)。おそらく局長としての顔なら、伊藤さんに対しお礼の一つも言ったはず。しかし素の近藤さんだったから、友の死に関して最悪のタイミングで口を挟んできた伊藤に、マジ切れしたんだと思うんです。
土方歳三山本耕史
法度に背いたヤツは切腹、総長の立場としてその鉄の掟は絶対に覆さない。社会人としての土方は機械のように正確、時に冷酷。斉藤曰く「言葉では言い表せない何かで通じ合っていた」山南でさえ、精密機械の判断は変わりません。近藤さんと同じく土方も副長としての顔(パブリック)を頑なに崩しませんでした。

 今思えば、池田屋事件で山南を屯所に控えさせたのも、新選組のブレインである山南総長を失いたくなかったがための事なのかもしれません。山南さんは剣の腕に長けていても、既に二度も土方の前で命の危険に遭遇しています(芹沢暗殺と斉藤の回想)。以後はできる限り山南さんは後方に控えさせる方針を取り、だからこそ戦闘に参加しない『総長』という立場を申し遣ったのではないでしょうか。池田屋事件の報奨金配分で山南さんに全く取り分がなかったのは、山南さんが疎ましいからではなく、「命を賭けた者を優遇」という決断を土方が副長の立場(パブリック)を貫いただけなのでは、と思い直させられるほどです。

 鬼の副長土方は、度々プライベートな顔を見せます。永倉達の思惑を察して島田を引き留めたあたりは、鬼の心が綻んだ一場面でした。しかも武田が代わりに見張りへ向かわないよう、石田散薬を「背が伸びる薬」と宣う挙動不審な鬼。このワンシーンだけは笑わせてもらえました。おそらく源さんの時にもなんとか島田を引き留めたんじゃないのかな?(これは妄想でしかありませんが)

 死装束の山南を一瞥。何で戻ってきた、って土方も言いたくて言いたくて仕方なかったと思います。何か口にしたらその言葉を漏らしてしまう、だから何も喋らぬよう我慢したんじゃないかなと…勝手に脳内補完。「私が腹を切ることで新撰組の結束がより固まる」と言った山南さん。このセリフは本音どうこうよりも、新選組総長として副長のやり方を信じてみたかったのではないのかな、という聞こえに感じました。どうか、『そんなわけないじゃん、史実でもこの後バラバラになってんだし』って冷たく切り捨てないで欲しい。山南さんは、近藤さんを一番に信愛する土方に対し嫉妬していて、同時にそこまでできる彼を憧れてもいたんでしょう。そこまで近藤さんと新撰組に賭けられる土方だから、山南さんも彼に賭けてみたくなったんじゃないでしょうか。それを言葉で表現したものがあのセリフだったと感じるんです。

 むせび泣き。もう涙だらだら流して唇が横に伸びまくって泣いてましたね。これぞ男泣き。演技の枠を超越していますよ、役と完全に同化しておられました。
山南敬助堺雅人
山南さんの死など、隊の誰もが望んでいませんでした。なぜ簡単に連れ戻されてきたのか、なぜ再脱走を頑なに拒むのか、なぜそんなに穏やかな表情で死を迎えられるのか。生きる目標を失ったから? 総長としてのけじめや責任? 答えは視聴者各人の想像にお任せ状態ですので、絶対解は見つからない気がします。

 一つ、オレなりに思ったこと。山南さんは「今の新撰組に自分の居場所はない」と言いました。しかし実際には、山南さんのためにあれほどの助命嘆願、脱走の手助けを行う者達がいました。山南さんは屯所に帰ってきて、自分がこんなに慕われているとは思わなかったのではないでしょうか(思っていたら、居場所がないなんて言わないと思う/あのセリフは、私にはもう役目がない=居場所がない、のニュアンスでもあったけど)。こんなにも慕われ信頼してくれる仲間がいる。だから山南さんは、その新選組に喜んで命を投げ打ったのでは、と思うのです。総長という立場で法度に背かず切腹することで、結束が高めるために、最後の最後で新たな自分の役目(=居場所)を見つけたのではないか、と思うのです。穏やかに切腹で散った山南さんは、苦しくても最後まで笑顔を絶やさなかった山南さんは、最後の役目を果たせて本望だと思ったのではないか、と。

 そうそう。なぜ必死に脱走しなかったのかと思ったこともありました。けれど、明里の気の向くままに付き合いました。なんとも山南さんらしい…。きっと山南さんにとって今度の旅の目的は「脱走」ではなく「明里に富士山を見せること」が主目的だったのでしょう。だから明里を必要以上にせかさない、明里が楽しんでいるならそれでいいじゃないか、ある種の覚悟を決めていたんだろうなぁ。
明里(鈴木砂羽
串の食べ方を山南さんに披露。先生と生徒が入れ替わり、なぁるほどと山南さんも満面の笑みで納得。すっげー和やかですねー…。って、そんな事してたら総司に追い付かれるー! 視聴者全員「志村、後ろ!後ろ!」の気分。

 総司に席を外して貰い、明里と山南さんの二人きりに。身請けしたことを告げられ「何でそんなことしたん?」って疑問をぶつけながら、内心すごく嬉しいんだろうなぁ…って想像して泣きました、オレが。一緒には行けないが丹波へ行け、いつか行く…ってシーン、山南さん死亡フラグ立ちすぎー! 涙止まらない!「ほんまやな?」「ほんまや」のやりとりが、切なさ1000%。もう無理。感動で全身の穴という穴から失禁します。

 次から次へと山南を助けようとする隊士達が訪れ、そしてとどめとばかりに現れた明里。これには山南さんも動揺を隠せず。急用でしばらく遠くへ行くという言い訳にも、頑張ってついていくと明里。近藤さんも説得を促されるが、近藤さんは二人の関係を察し、山南さんに話を合わせる。そして、富士山に行く約束を
STOP!すとーーーっぷ! 感想、ちょっと休憩させて下さい…。感想文書きながら、オレもう少しで泣くところでした…。アブねぇなぁオイ…。お茶、お茶だ。なんか飲んで落ち着こう…

(5分休憩)

 おk。戻りました。続けます。富士山に行く約束を何度も何度も交わす二人。涙なしには見ていられません。そして近藤さんも遂に、涙を堪えきれず席を外し、別部屋で崩れ落ちました。この時の明里は、まだ山南さんと一緒に富士山へ行けることを信じていました。
 薄青+白装束にの山南。山南さんが青色の服を着るのは、ここ最近では久々ではないでしょうか。新選組カラーは浅黄色、けれどここ最近の山南さんは赤錆色のような衣を着ており、衣服の色からも新選組と対照的だったことが伺えます(深読みしすぎ?)。小窓を叩き、明里が菜の花を差し出します。「この時期に菜の花は咲かない」と言われ、頑張って探し出したのでしょう。「うちの言うてた通りやろ?」「私の負けだ」のやりとり、これから切腹だというのにどうしてこんなに穏やかなのか。とことん泣かされます。

 山崎様とのやりとり。「切腹するんやろ、これから?」と漏らす。女のために嘘を付こうとしてる男には、女は敏感に反応しますね…。「うちが泣いたら、あの人悲しむだけやろ? そやから騙してやったん」って、うわぁぁぁ!(オレの防波堤が完全決壊したシーン)「アホや…」とつぶやき泣きながら歩き出す明里の背中が、背中がー!うわぁぁぁ!!(オレの防波堤から何かが吹き出しちゃったシーン)わずか三回の登場だったのに、明里というキャラクタでここまで泣きの爆弾を投下されるとは…信じられません。


各人に長くなって時間が無くなったのでこの辺で切り上げます。残りは後編として明日に続けます。