1774. 週刊少年ジャンプ02号 - バクマン。 17ページ『バトルと模写』

本編の絵より模写絵に目を奪われてしまう回。

今話の要点

  • 格闘技を体感したり、バトルマンガを模写したり。
  • ジャンプで一番を目指す最高や秋人、声優の道をめげずに頑張る亜豆。
  • 夢に真っ直ぐ向かう彼らに対し、夢を断念していた香耶。
  • 香耶テコ入れ回。
  • 連載会議でエイジの『YELLOW HIT』が連載決定する。
  • 机上を触られて荒れるエイジ。
  • エイジの担当・雄二郎はアシスタントを連れて仕事場へ。
  • エイジテコ入れ回。
  • 王道ネームを持参する亜城木、『CROW』の原稿を手渡すエイジ。担当さん震撼!


ポイント考察 - バトルマンガの練習法(作画)
人間の「身体」をマンガ絵に落とし込むには、骨格を知り、筋肉を知り、臓器を知り、人体構造を掌握する必要があると聞きます。スポーツやバトルを描くには更に、人体を静止画でなく動的に表現すべしと、かの村田先生も語ってましたね。

人体の動的表現となると、そこには「実物の手本」が必要になるでしょう。例えば敵を殴る瞬間の、腕の伸ばし方、方の入れ方、筋肉の捻り方。バトルを描くには、格闘技の「経験」「知識」は確実にプラスになると、素人目にも思います。

と、ここまでは絵の話です。


ポイント考察 - バトルマンガの練習法(脚本)

じゃあ脚本屋は何を鍛えりゃいいんでしょう。特に秋人みたく、話作りのキホンを理論や理屈で学び尽し、短編を量産する実践力もある、限りなくプロに近い人。キホンを押さえたその先で、今度は何を拠り所にステップアップするのでしょうか。

バトルモノを創作するなら、武術を知っているに越したことはありません。その一方で脚本屋には、バトル展開をごく自然に、必然性を帯びた内容で、物語へ組み込む力が大切だとも考えます。あるいは、対立の理由を理屈じゃなく心で掴むテクニックが必要です。必殺技のヒントを物語上に乗せたり、今の戦いが次の戦いを引き立てたり…。

一口に「王道」「バトル」マンガと言えども、武芸・格闘の知識だけで罷り通る世界じゃないハズです。詰まるところ、王道シナリオの創作が苦手な今の秋人には、格闘よりも学ぶべきことが多々あると思います。展開の早いマンガですし、秋人は今回、香耶と殴り合っただけで『バトルマンガの修行編終了!』の可能性が大いにありえます。ですが、それではあまりに残念です。

マンガのような芸術商品は、工場で大量生産できる商品とは違います。作業や工程をプロセス化、見える化、規格化するのも困難。学問として体系化できた部分は、小中高の国語で学ぶような『キホン』だけ。ですから芸術の世界では、先人の技術を盗み、模倣し、アレンジすることが学び方のメインストリームなんでしょう。

「限りなくプロに近い人」が「プロ」へ成長するために、今より一歩先へ踏み出すために、次は何をすべきか。『バクマン。』が示す一例を読んでみたいのです。キホンを押さえたその先の学習法に正解なんてない。だからこそ、一つでも多くの「手法」を知っておきたい。マンガ家の卵たちが本作に期待する視点は、きっとそこだと思うのです。

ポイント考察 - もうひとりの主人公
これまでエイジを「最高のライバル」と認識して読んでいましたが、今回の件で心象が一転しました。彼もまた「主人公格」と見るべく人物なのかもしれません。表主人公の亜城木、裏主人公のエイジという二重進行をして、『週刊少年ジャンプ』を異なる視点・観点から解剖しうるのです。

そう考えると、赤マル対決を経て未だエイジと亜城木に接点がない展開も頷けます。仮に今回、エイジが亜城木を意識していたら、エイジは亜城木のストーリーラインに食われるわけで。「エイジは亜城木を知らない」状況だからこそ、エイジという一個体が『物語のお約束や縛り事』から脱却し、自由行動できると思うのです。思えばデスノートも、Lと月は接触しない頃の方が、大胆不敵な行動・展開を起こせていました。

このまま第三、第四の個性的な作家が現れ、それはやがて20人前後まで迫り、彼らが作中オリジナルの週刊少年ジャンプを発行するような群集劇が始まっても面白いよなあと、妄想してしまいます。残念ながら『バクマン。』は断片的なリアルを作中に織り交ぜて物語る作品ですので、そこまでぶっ飛んだ展開は期待できないでしょうけれど…。


ポイント考察 - エイジの非社会性
「漫画しか知らない高校生が漫画家になったら」のIFを、これ以上ない渾身のネタに昇華させたなあと思いました。連載タイトルまで決まってるのに、好きな漫画描いちゃう。この展開は、素直にヤラレタ!

自分の漫画を掲載している出版社や雑誌のシステムに一切関心を寄せなかったのも、作品の人気や分析に関心がないのも、「天才故に」ではなく、「社会を知らない」ことの強調であったというミスリードが上手かったと思います。これは、最高や秋人が「計算型」であったため、その対比に描かれるエイジを「天才型」と思い込みすぎた故、その死角を突かれたに他なりません。

結果として、計算型の亜城木も、天才型のエイジも、非社会的な行動に出ました。どちらも(社会の歯車的な意味で)社会人になりきれない、端的に言えば、子供。亜城木とエイジは対極にあり、まったく異なる道を歩むと思わせながらその実、「子供」故に大人が大迷惑を被るという共通項へ帰結させたのは、さすがの展開です。


ポイント考察 - 夢と商売
エイジや亜城木の「子供らしさ」に対して、服部さんやアシスタントのお二人は「大人らしさ」を意識して描いていると感じます。例えば先週、エイジに勝てるとあれだけヒートアップしていた服部さん。今週、本ちゃんの結果が三位と分かった途端、彼は驚くほどクールダウンしていました。

最高や秋人がガックリしているから、その気持ちを察して冷静に対応したとも読めます。でも、その「冷静な対応」自体がなんだか大人っぽくて。最高達と一緒に残念がったり、悔しがったり、心が折れたりする服部さんの表情・心境を表層から窺えないのは、チョッピリ残念だなと思えたりもします。その辺が大人。

もっと高い視点から俯瞰すると、服部さんもアシスタントの二人も、生きる糧として漫画作りに携わってる方々です。彼らは、もしも間違いを起こしたら食いっぱぐれる恐怖感を「背面に感じている側の人間」と思います。この出版社と関係を悪くしたら収入源が細くなる、とかとか。無意識にそういう計算をして、我を殺してクールに振る舞うわけです。だからガキのアシスタントも引き受けるのです。

社会人の立場として自己を振り返ってみても、仕事上ではあまり感情的になれないし、そんな気分にもなりません。一歩退いてクールに振る舞ってしまうのは常で、最高のように夢に向かって情熱で押せ押せな気分にはなれないです。無論、エイジのように「好きなことを好きなだけやる」なんてとてもとても…。

そういった「子供らしい行為」はもちろん、決して悪くないんですけどね。ある意味、突き抜けられる人こそ成功者たり得るのでしょうから。そういう意味で行くと、「好き勝手にやれる側」の人間である亜城木やエイジは、成功者の素質が十分ありますよね。


今週のバクダン
開始早々「ノーパンでなにやってんの香耶さん!」と目を疑った大多数読者の一人です。


次回予想
亜城木サイドは、服部さんからそりゃあもうコテンパンに叩かれると予想します。かと言って、次回で新たな課題が見出せないと、『バクマン。』としては作品展開が停滞してしまいます。秋人は「王道に向いてない」、最高は「絵の練習」で突き返されてばかりで、その一歩先の課題が出てこないんですよね。

ですから、修行にしろ新作にしろ、新展開を迎えられないんです。というわけで、次回は最高や秋人に「新たな課題が生まれる」という予想を立てておきます。

エイジサイドは、個人的にはこちらの展開の方が楽しみです。あのワガママで自分勝手なエイジを、どうやって商売の世界に手名付けるか。そしてまた、担当がエイジを説得できたとして、アシスタントとの協調作業は実現可能なのか。しかも、本日中にはカラーの表紙を回収しなきゃダメ。迫り来る納期! どうなる次回! 無難な展開に収まるはずがない!

次回がすごく楽しみです。


残存するキーポイント
以下、これまでの感想で予想した内容をまとめてます。

  • [高][12-] 美保は少年誌あたりで水着グラビアを飾り、ブレイクする。
  • [高][12-] グラビアのブレイクを逆手に取り、事務所へ声優路線の意向を強気に示す。
  • [中][16-] 編集部の意向を味方に服部担当の反対を押し切り、亜城木の連載が決定する。
  • [中][06-] マンガ雑誌『少年スリー』は今後も何らかの形で再登場する。
  • [中][07-] 高校進学以後、秋人は香耶を使って「美保の情報」を入手し続ける。
  • [中][09-] エイジと最高の評価に並び、エイジのプライドが傷つく。
  • [中][09-] エイジは最高のマンガを打ち切りに指名する。
  • [低][06-] 中学の同級生「石沢」は意外とプロになっちゃう。


これまでのバクマン。感想