1756. 週刊少年ジャンプ46号 - バクマン。 9ページ『条件と上京』

先週(大人からの客観的評価)、今週(最高と正反対ライバル登場)の二話でぐっと面白くなってきました。相変わらず展開が早いので、予想しがいがあるマンガです。

今話の要点

  • 最高と美保が筆談でコミュニケーション。
  • 最高「どうしても夢が叶ってから?」の問いかけに泣き出す美保。
  • 美保のメールアドレスを教えてもらった。
  • 最高たちの新人賞には最終候補に残れなかった。
  • ジャンプ編集部の構成案内。三班構成や月例賞の担当説明など。
  • 新妻エイジの高校生デビューを目指し、ジャンプ編集長が実家へ訪問した。
  • 新妻エイジ登場。
  • ジャンプで一番人気作家になれば、嫌いなマンガを一つ終わらせる権限を要望した。


ポイント考察 - 「最高の二面性」と「バクマン。の二面性」のリンク

最高という人間をまた一つ理解できました。普段の最高は、本能より理性を優先して感情に流されない人間です。そこが一般の中学二年生よりも大人びていて、どこか人間離れしたアンリアルな人物造形を感じさせました。

現代社会を他人事のように冷めた目で見ていたり。マンガ作りも自身に至らない技術を客観視できたり。担当編集が信頼に足るか逆面接したり。そんな態度は度々、「ガキのクセに生意気」だと、読者をイラつかせる要因になるのでしょう。

そんな最高も、美保が関わると途端に冷静さを欠きます。「夢の約束」を破るようなメッセージを伝えて美保を泣かせたり。美保の笑顔を見たいがために強引なスケジュールで手塚賞応募を提案したり。そして不思議な話なのですが、そんな風に取り乱して暴走している最高の方が、人間らしくて魅力的に見えるのです。

バクマン。のマンガジャンルは「マンガ創作」と「恋愛」の二本柱で構成されます。メインの前者が嫌味に感じ、サブの後者が支持される理由は、冷静さを欠いた最高の方が等身大の中学生に見えるから、共感しやすいのかもしれません。


ポイント考察 - 最高と秋人の相性(イレギュラーの内的要因)

いつかの感想で、「アクセル役の秋人とブレーキ役の最高は、絶妙な相性だと思う」と言及しました。ところが今話は、暴走した最高を秋人が抑え、立場が反転しています。今回はたまたま秋人が冷静でしたが、ケースによっては二人とも理性を欠き、イケイケでごり押しする場面だってあるでしょう。というか、結果的には二人とも暴走して、手塚賞を狙う展開ですし。

二人が真に「頭がいい」のであれば、内的要因からのイレギュラーが発生しづらく、例えば『DEATH NOTE』の月みたく、「計画通り」に事を進めることができます。ですが、「二人とも暴走する可能性」が見られた今話。二人のサクセスストーリーは、一筋縄ではいかないんだろうなあと感じました。


ポイント考察 - 編集部という存在(イレギュラーの外的要因)

バクマン。を読んでいてつくづく思い直すのが、「芸術というのは実はソロプレイじゃない」ということです。競争社会に組み込まれた途端、それはオナニーではなくなるんですよね。

マンガを創造するのは作家です。しかし作家には担当編集がいます。担当編集には編集部があります。編集部には会社の方針があります。会社には親会社があり、提携会社があり、スポンサーがいて、株主がいて、国政や国家のルールがあり、世界情勢をいち早く読まなくてはなりません。

今話、ジャンプ編集部の紹介や編集長が登場しましたが、ああして整理されると、マンガ作家も所詮は社会の歯車だったと再認識できます。そしてこの件はなにも、マンガ作家だけの話に留まりません、画家も、小説家も、建築家も、彫像家も…。いわゆる「雇われ芸術家」は、そうした事情を(大小あれ)抱えます。

歯車から脱却する唯一の術は『十分な大富豪&権力者となり、金や権力や世渡りのしがらみがない立場を確保すること』あるいは『出家すること』だと思いました。煩悩を捨てて俗世を捨てて、仏様を彫ればいいのです。たぶん。

話を本題に戻します。

いくら作家(最高と秋人)が天才で、内的要因によるイレギュラー(ミスや暴走)を未然に防げても、外的要因によるイレギュラーには翻弄される運命にあります。本編でも紹介された、マンガ家に必要な三大条件のひとつ『運』とはつまり、この外的要因にあるでしょう。イレギュラーが吉と出るか凶と出るかは、まさしく博打です。


ポイント考察 - 新妻エイジという存在(イレギュラーの外的要因)

さらに『新妻エイジ』という外的要因の登場。実のところ彼は、最高に吉も凶ももたらすでしょう。概ね以下のような要因が簡単に思い浮かびます。

  • (吉)エイジの活躍なしに、最高たちは持ち込みを即断しなかった
  • (吉)エイジから刺激を受けたから、最高達は急激に成長できた
  • (吉)高校生デビューの敷居が低くなる
  • (吉)エイジと並べて比べられることで、周囲から期待され注目を浴びる
  • (凶)エイジと並べて比べられることで、客観的な評価を得にくくなる
  • (凶)エイジが一番人気作家になると、最高達のマンガが打ち切られる(可能性大)

特に禍々しいのは最後の件。バクマン。という作品の読み物として、エイジが「嫌いなマンガを終わらせる権限」の行使に、最高たちの連載マンガを指名するのは必至でしょう。ここでまさか『ワンピ』とか『こち亀』という選択は(面白いけど読み物としては)あり得ないわけで。ネタで想像するのは面白いけどね!

エイジが「嫌いなマンガを終わらせる権限」を欲する設定の必要性から逆算すると、きっとエイジと最高は、仲の悪いライバル関係(敵対者)として対峙するのでしょう。少なくとも、仲良しライバルなら相手を実力行使で蹴落としたりしませんよね。


ポイント考察 - 最高にとって究極の不幸とは

先週の感想で触れた『挫折しないという不幸』も合わせて鑑みると、最高には何ら落ち度がないのに打ち切られるという不幸は、ある意味で、究極の不幸に他なりません。なんというか、そこまで行くと寧ろ読んでみたいですよ。

どうせなら、美保もエイジに寝取られていただきたい。突然の打ち切ら宣告で真っ白になった最高は夜の街を放浪し、エイジと美保がラブホから出てくる場面を目撃するの。「マンガ創作」と「恋愛」という二本柱、その双方向から究極の不幸を浴びる、究極のドロドロ展開。うはあ、超読みたいわ。

究極の逆境から、究極の起死回生を読んでみたい。その精神力、まさにフェニックス! そこまで描かれればもう、平成の『火の鳥』として構成に語り継がれる作品になると確信します。


ポイント考察 - 最高とエイジの対比・その1

先週言及された、「天才型」「計算型」のマンガ家タイプが、早速生かされる展開となりました。

  • 「計算型」の最高&秋人
  • 「新妻天才型」のエイジ

最高はなまじ業界知識に精通し、おじさんから「マンガ」の書き方を見てきたためか、マンガを型にはまった定番の「技術」ありきで描こうとします。また、秋人も頭がいいだけに、「売れる漫画の傾向」を予測したり、既存の名作マンガから「売れテンプレート」を模索するなど、二人とも物事を理性で判断する「計算型」作家です。

一方の新妻エイジは物事を本能の思い付きで判断する、典型的な「天才型」作家です。思考・行動が非常に幼く、両親から甘やかされて育った家庭環境も垣間見られます。

  • 原稿をエンピツで描いている(定番の技術にとらわれない)
  • 編集長(大人)に媚びない、礼儀がない
  • 壁一面のメモは整理された情報ではなく本能的に思いついたネタを取り留めただけの内容
  • 「嫌いな漫画を打ち切りたい」という子供じみた要求
  • 擬音を口に出しながら作業する

最高&秋人とは対極の立場でライバル化したのは面白い展開ですね。月(世界的犯罪者)に対するL(世界的名探偵)という構図そのものです。


ポイント考察 - 最高とエイジの対比・その2

そしてまた、新妻エイジのマンガ以外は一切手を出さない異常なストイックさも目を惹きます。

  • 「美保と結婚したい」ためにマンガを描く最高
  • 「マンガを描きたい」ためにマンガを描くエイジ

マンガ描きという職業は同じでも、ジャンプで成り上がる目的は同じでも、根底にある「動機」は大きく異なります。エイジよりも不純な動機でマンガを描く最高は、それが弱味になるのか、強みになるのか。この差が二人の今後にどう響くか見物ですね。

もしもエイジと最高のマンガ評価が同程度になったとき、純粋に「マンガ一本」でやってきたエイジのプライドは大きく傷付きそうです。それがエイジの反感を買って、最高達のマンガを打ち切りたくなる動機へ繋がるという可能性が考えられますね。んー、ちょっと安直すぎるかなあ。

余談になりますが、東京ゲームショウKONAMI小島秀夫監督と、カプコン辻本良三監督が、以下のような答弁をしています。

ゲームクリエイターになりたいが、大学と専門学校のどちらに進学すべきか?」という質問に対して、小島氏は「ゲームは広い知識が必要になるので余裕があるなら大学。なるべく全方位の経験を積んで欲しい」と大学を薦めます。

(中略)

クリエイターを目指しているという人は「ストーリーや企画を立ち上げる時には思いつきと計算のどちらで進めていけばいいのか?」と質問します。「主軸となるコンセプトを確実に固めるべき。アイデアはコンセプトがあればブレない。何を仕上げたいかが重要」(辻本氏)「アイデアは自分が好きなところから生まれるが、色々な人の視点でどう見えるかを探りながら続ける」(小島氏)

(中略)

最後に「クリエイターになりたい人へのメッセージ」として、辻本氏が「今しかできないことを大切にして欲しい。それが発想や知識になるので、今の時間の使い方を考えて生活して欲しい」と日々の大切さに関するメッセージを語れば、(後略)

様々なやりたいことを我慢して、人間的に最低限必要なことを放棄して、それが真にクリエイターとしてプラスかを問いたとき、日本の偉大なゲームクリエイターは「ノー」と答えています。すると、エイジのようにマンガ一辺倒なやりかたこそ、ウィークポイントになりうる可能性があります。

大場先生や小畑先生が、「クリエイターに全方位の経験は不要」と考えているならエイジは強く描かれるし、そうは考えていないなら、大恋愛を謳歌している最高こそ強く描かれるでしょう。無論、エイジはあくまでも創作上の登場人物ですから、こうも極端な人間が存在し足るし、「天才型」として大成功を収めるに至るのでしょうね。


ポイント考察 - 最高とエイジの対比・その3

「天才型」「計算型」の対比は、仕事部屋の風景一つからも見て取れます。

  • 整然と整理された最高たちの仕事場
  • 思うがままに散らかしたエイジの仕事場

前者は理性的な部屋なのに対し、後者は本能的な部屋なんですよね。理性とは計算の象徴だし、本能とは(成功すれば)天才の象徴です。部屋の設定一つでも、最高たちとエイジの間で対比効果を与えたのは、きっと小畑先生が作画中にワンポイント付加したアイデアなんだろうなあ…と推測してみたり。相変わらず、芸が細かくてステキです。

ところで、エイジの編集担当やアシスタントは、相当に大変そうです。だって彼、上京しても絶対一人暮らしできないタイプでしょ。担当編集やアシスタントが、身の回りのお世話をフォローするんでしょうね…。それにエイジは閃きタイプだから、納期とか計画とか、さっぱり守らないんじゃないかな。担当編集さんの胃がズタズタになるのは、もはや約束されたようなもの…。


ポイント考察 - その他あれこれ

美保の好きな季節は「秋」という返答。席替えで最高の隣になれた「この時期」がすこく大切で大好きだから、秋だと答えたのかな。と妄想してしまうのはロマンチック回路が発達しすぎですかそうですか。

「ふたつの地球」の月例賞は最終選考止まりでしたが、服部さんがあれほど苦悩しながら、結果報告がアッサリしすぎたのは気になりました。結果報告する服部さんの言動はどこか申し訳なさそうで、それは一見「秋人たちの心境を察して」とも見えます。ですが、それと同じくらいに、選考に出さなかった後ろめたさとも読めるんですよね。結果的には双方の想いが一致して問題なかったけど、はてさて真相はどうか?

「月例賞落選」ということで、前回の一予想は外れました。ところが、月例賞より大きな「手塚賞」を狙う展開に入り、大枠の予想(中学生のうちに何らかの賞を受賞する)は生き残りました。もっとスケールの大きい賞を目指すという発想を出来ないのが、凡人(オレ)と天才(最高と秋人)の差ですね!


次回予想
夏休みスキップの理由もそうだけど、マンガを描いてる最中の描写って紙面へ載せるには地味だから省略されやすいんですよね。過程は重要視しないから、きっと手塚賞の原稿作業も省略されるんでしょう。「ふたつの地球」みたく、コンセプトくらいは知らせてくれると思いますが…。

次週からは「最高パート」と「エイジパート」を並行展開を期待します。手塚賞の原稿作業だけでは間が持たないでしょうから、時系列を最高とエイジが交互に埋める形で展開するのが素直でしょう。手塚賞の原稿を提出し終えるまで、恋愛パートはお休みかな。


残存するキーポイント
これまでの感想で予想した内容をまとめています。

  • [高][03-] 最高の父の正体(マンガ編集者の部課長クラス?)が明かされる
  • [高][05-] 第5話の『作画講座』同様、『原作講座』も大々的にページを割く
  • [高][07-] 服部は編集者の立場として、最高&秋人の強い味方になる
  • [高][08-] 最高も秋人も挫折しない。「挫折しない不幸」を味わうことになる。
  • [高][08-] 『二つの地球』が月例賞を受賞する。(佳作でもOK)→×
  • [中][03-] 父とおじさんの過去エピソードが語られる
  • [中][06-] マンガ雑誌『少年スリー』は今後も何らかの形で再登場する
  • [中][07-] 香耶も谷草北高に進学する
  • [中][07-] 高校進学以後、秋人は香耶を使って「美保の情報」を入手する
  • [中][09-] エイジと最高の評価に並び、エイジのプライドが傷つく
  • [中][09-] エイジは最高のマンガを打ち切りに指名する
  • [低][03-] 祖父の正体が明かされる
  • [低][06-] 中学の同級生「石沢」は意外とプロになっちゃう


これまでのバクマン。感想