1731. 先行感想 - バクマン。 3ページ『ペンとネーム』

今週号の「バクマン。」について、大きくネタバレを含んだ感想記事です。2008年40号を未読の方は、閲覧を控えて下さい。


今週の要点

  • マンション9Fの仕事場へ足を踏み入れた最高と秋人。
  • 3DKの壁をぶち抜き1DKにした仕事部屋は、マンガ本の図書館状態だった。
  • 生原稿と生ネームを初めて目にする秋人。文章だけでは駄目と知る。
  • 最高の1番好きなマンガは『あしたのジョー』。男っぽいマンガが好き。
  • 秋人の1番好きなマンガは『ドラゴンボール』。流行のマンガも研究中。
  • 下らないマンガの例:セックス、レイプ、妊娠、中絶、不死の病
  • マンガ家に対して声優のデビューはとても早い。
  • 亜豆が早々と売り出される可能性を見越して18歳までにアニメ化を目指す。
  • クローゼットには、丁寧に整理整頓されたネームと原稿がぎっしり。
  • 大量のネームから原稿になったのは何100分の1…。
  • 最高はおじさんが過労死だったと確信した。
  • 最高が父親に初めて電話で直接話す。
  • 父はマンガの名シーン・名台詞を引用して最高の漫画魂に火を付けた。


ポイント考察 - 潜入、おじさんの仕事場!
ついに潜入、川口たろうの仕事場!

最高と秋人が仕事場に踏み入れる。カーテンの隙間から漏れ入る月明かりで、部屋はやや薄暗い。部屋の奥には何者かが椅子に座りながらどっしり構えていた。それを目視した二人は同時にギクリと固まる。少年達が怯える様子にニヤリほくそ笑み、やがて先客はゆっくりと口を開いた……。
川口たろう「…… ククッ… ついにきたかね……」

なんてことにはなりませんでした。先週の感想では「川口たろうの死に迫りながら漫画描きを目指す、ちょっとミステリ掛かったサクセスストーリーだと嬉しい」と、だいぶ空想を広げてみましたが、思いっきり透かされました。それでこそ大場×小畑作品です。


ポイント考察 - 「バクマン。」は純・漫画家マンガ

今話を読み返すと、やはり「おじさんの死の真相を追いながら〜」なんて予想は馬鹿なこと言ってたなあと痛感します。「バクマン。」の方向性やテーマといったものを、ガツンと見せつけられた気分です。願わくば『マンガ家のサクセスストーリー』をストイックに貫く姿勢を、今後も維持されたいです。

もちろん読者としては、亜豆サイドの展開も、三者三様の葛藤も、家族内の繋がりも、心理面の掘り下げだって読みたいんですよね。でもきっと『大場×小畑作品』は終着駅に向かって超特急で直進するし、途中下車もされないハズです。その辺の冷徹さも含めてこの作品はストイック。故にテーマもブレません。


ポイント考察 - 『大場×小畑作品』が余計なエピソードを挟まない理由
先の話で『大場×小畑作品』は、「終着駅まで超特急」「途中下車しない」と述べました。これは『大場×小畑作品』のパーソナリティで、他の作家には易々とマネできない持ち味だからです。ところが、このやり方はエンターテイメントとして、必ずしも絶賛できる芸風とはいえません。

野菜を念入りに水洗いすれば、害虫や農薬は濯ぎ落ち、見た目(構成)はスマートかつ美しい姿になるでしょう。ですが同時に、栄養分もどっさり抜け落ちます。もっと読者の期待する余分なエピソード(栄養素)を横掘りしてもいいのに、驚くほどカットしてしまうのが『大場×小畑作品』です。

なぜ「途中下車しない」のか。思うに『大場ネーム』という代物は、途中下車しないのではなくできないのです。これは、自分をはじめ、一つ話題を挙げるとすぐに長文化する長文型の人間なら共感される話と思います。伝えたいことが新たな話題に連鎖し、拡散し、なかなか収束しないのですよね。

ウチみたいなブログなら、思い付きを好きなだけ垂れ流せますが、週刊連載マンガともなるとそうはいきません。ネームからは、本題から外れた余談から順々にカットされることでしょう。しかし一方で、ネームには「流れ」があります。一部をカットすると不自然になり、それは「長文型」ほど調整が困難になります。

長文型のネームを省略する最適・最速の解決策は根から絶つこと。つまり、『大場×小畑作品』のように「終着駅まで超特急」して「途中下車しない」ことです。大場ネームを下地にした『大場×小畑作品』は、だから途中下車しないのです。それを描いてしまうと、余計なエピソードが間延びしてしまうから…。


ポイント考察 - 『原稿になったのは何100分の1』の原因
「大場先生=ガモウ先生=川口たろうのモチーフ」ですので、川口たろうもまた長文ネーム型の作家でした。その特徴は、「おじさんの膨大なネーム量」が痛々しいほど物語ります。

先ほども述べましたが、長文ネームはわずか20ページ弱の週刊連載枠に収まりません。だからこそ『原稿になったのは何100分の1』の原因にも繋がります。このエピソードは演出でもなければ、ドキュメンタリでもなくて、単純にガモウひろし先生の実体験をノンフィクションに起こしたものなのでしょう。

「いやいやそんなことない、マンガ家はたいへんなお仕事で『ネーム何100枚が原稿1枚に相当』は業界の常識だ!」と反論されるかもしれません。ところが今話では同時にあしたのジョーの作者は週刊連載を五本くらい持ってたという一例も提示しています。マンガ作家の姿は多様にあり、川口たろうはイレギュラーであって、モチーフになった作家先生の姿だと受け止めるのが素直だと考えます。

長文型作家のガモウ先生は、何100枚のネームを書いてもたった1枚の原稿にしかならない己の姿を客観視して、「ヤバイ、このままだと過労死するぜ!」と実感したのかもしれません。その実体験を逆手にとって、本作ではマンガ家の過酷さと案内すると同時に、物語としても最高に真の覚悟を引き出すトリガーとしてアレンジしたのです。

……と推察するのは、こじつけすぎでしょうか。


ポイント考察 - 主人公の大目標
近年の少年マンガには絶対に欠かせない要素が「主人公(作品)の最終目標」です。本作もこれまでは、マンガ家になって成功するという漠然とした目標がありました。しかしながら、第三話にしてついに「18歳までにアニメ化を目指す」という正式目標が提示されましたね。

この大目標には感想書きも、読者一同も、きっとド肝を抜いたことでしょう。だって大博打にも程がありますよ。といいますか、逆算したら数字が合わない気がします。一発目に描いたマンガを持ち込みして評価されるハイペース展開じゃないと不可能なのでは…とさえ思えてきます。

週刊少年ジャンプのシステムを下手にカジってる人ほど、この衝撃はデカかったはずです。WJの土俵でアニメ化を狙うには週刊連載が一年半以上続く必要があります。その前には本誌読み切り掲載、そに前に赤マル掲載、その前に新人賞あるいは持ち込み……。アシスタント下積み経験とか、全部カットが前提ですよね…。

かなり厳しい職場なので忍耐力があり細かい作業が好きなアシスタント時代を個人的には相当期待してたんですよ。マンガ家を描く漫画はよく見掛けるけど、マンガ家アシスタントを主観的に描くマンガはそうそう見掛けません。そこから漏れ出す、アシスタントならではの苦労話、現場トークを覗き見たかったなあ…。


ポイント考察 - それはドM(無茶)な目標です!

それでは逆算してみましょう。18歳までにアニメ化が決まるまでの道のりを

  • 18歳 ... アニメ化決定
  • 16歳 ... 最高&秋人がWJで連載を開始
  • 15歳 ... 新人賞受賞、赤マル掲載、本誌読み切り掲載
  • 14歳 ... 新人賞に応募、あるいは持ち込みで評価を受ける

はい、改めて言わせてくださいね。18歳でアニメ化て。これで中卒コースは確定です。

業界事情に精通している最高は、この逆算も中卒も込みで、真に覚悟を決めたハズです。対して、業界に無知な秋人はどうでしょう。前話で「学歴はマンガ家に失敗したときの保険」と物語った彼に、その保険を捨てる覚悟はあるのでしょうか。少なくとも、今回秋人が最高と交わした約束は、そこまでの覚悟を伴っていません。

余談になりますが、「本誌読み切り掲載」のイベントは、金未来杯の形式で新人対決を繰り広げていただきたいです。それなんて室町杯?


ポイント考察 - 最高の父と祖父
父親も相当の漫画読みでした。弟がマンガ家なら影響を受けるのも当然…と受け流すのもアリです。ですが、感想屋として予想を大胆に膨らませるなら、父親も出版業界、マンガ業界の関係者なのでしょう。それは、祖父の意味深な言動(第二話)も合わせて鑑みると、一定の納得感は得られます。

祖父「最高は変わったな あいつはもしかしたら本当に駄目かと心配したが あれでいい」

祖父から見て、二人の息子がマンガ関係の業界人だとするなら。「あいつは駄目かと心配した」とは「最高はマンガを送り出す世界に生きる資質がないと心配した」と翻訳できます。…できますというか、相当に無理繰りですが。

とすると、父親の職業は自ずと編集部の人間で決まりでしょう。編集者を目指した理由は、「弟が小さな頃からマンガ家に憧れていて、それを客観的に評価・意見交換してるうちに編集の仕事が面白くなった」なんてどうでしょう。その辺の動機も含めて、次回『父と子』で明かされる…という予想を出しておきます。

次回は、単なるプロローグのちょい役として登場するのか。それとも編集部の橋渡し的存在として今後も続投するのか。もし本当に編集者なら、年齢から考えても課長か部長クラスです。編集部と「橋渡し」する役割としても申し分ないポストです。


ポイント見所

  • ヒーローフィギュア満載。フィギュアの偉い人が元ネタ案内してくれるはず
  • そして昔のジャンプ満載。ジャンプの偉い人が元ネタ案内してくれるはず
  • 巨人の星』『あしたのジョー』…先生方、その引用は27歳の世代にも辛いです…
  • 「もうハンパなんかやらない」→高校には通わずマンガ道に専念する覚悟も?


次回予想
考察文を書きながら予想が混ざってしまったので、改めてまとめておきます。

  • 秋人、「18歳までにアニメ化」がいかに無茶振りか改めて知る
  • 最高の父の正体(編集部の偉い人?)が明かされる
  • 父とおじさんの過去エピソードが語られる
  • あるいは祖父の正体までも…

秋人が目標の無茶っぷりを思い知るコトになるのは、次回じゃなくてもよさそうですね。あるいは最高自身も、その点に気付いてなかったりして…。


これまでのバクマン。感想