1157. 極めてデリケートな問題

人類の半数は日常茶飯事に発生してますから。

エマージェンシー! エマージェンシー!

当艦は現在、敵勢力の強烈なプレッシャーに遭い、予定進路を外れている。繰り返す! 当艦は敵勢力の牽制を受け、船体が大きく傾いてしまった。よいかッ! これは非常に危険な状況である。かつまた、極めてデリケートな問題を孕んでいる。

我々の存在は、今の姿こそ仮初めの小型艦ながらも、実は最新鋭巨体兵器*1である。この秘密は敵勢力はおろか、親愛なる同盟諸国の艦隊にも、一切何人にも悟られてはならん。今ここで兵器を開放することは、軍法規則により極刑である! 我々の存在はあくまで、大宇宙の闇に潜む野生の狼牙…。これ以上の目立つ行動は、万死に値するッ。

敵監視に感付かれぬよう艦体の傾きを取り戻し、直ちに危機を脱せよ。これが我々唯一の目標だ。船首を左翼四十五度に傾けィ! すべからく船首方位を修正せよッ! くれぐれも事は慎重に運ぶように。…おいッ、左腕舵手! 右ポケットに携帯電話を入れて膨らみのダミーを作るアイデアはそれ自体なかなかのセンスだが、しかし事を焦りすぎるな。左ポケットに忍ばせた本命を動かしすぎては、結果的に過剰な視線を浴びる事になるぞ。

右腕舵手は陽動に徹せよ。なにか珍しい物品を所持してアピール、あるいはペットボトルを手に持ち水分補給して通行人Aを装うなどして左腕をサポート。他の舵手も手を止めるな、各々通常動作の維持に努めよ。よいか、艦体自身への取り扱いにはくれぐれも注意せよ。誤って秘密兵器が起動し、或いは暴発しては、事は取り返しがつかんからな!


……


全艦内通達! 左翼よりポケットを利用し左腕舵手をステルス化、船体を掴んで平衡状態への遷移を確認した。作戦は成功である! 繰り返す!! 十分に時間を投入し慎重に事運び、左腕舵手の活躍により船路の正常化を確認。喜べ! 作戦は成功だ! 敵陣営に目立った変化は無し。本艦はこのまま平静を装いつつ、当エリアを緊急に脱出する!

SnowSwallow自伝「男性自身の極めてデリケートな問題」第24章11節より抜粋

*1:いくら何でも見栄を張りすぎた。