1036. 領土消失

祖父が亡くなってから祖母が一人暮らす一軒家には、玄関へと至る細道の途中にちいさな庭がある。この庭にはいい具合いに家影ができるので、いつの頃からか数匹の野良の猫達が居着いてしまった。あるいは一人寂しさを紛らわすため、祖母が手なずけたのだろう。野良の猫達にとってこの庭は日中の避暑地であり、たまにご飯が振る舞われる楽園であった。
お盆になると野良の猫達の見知らぬ来客が多くなり、彼らに心安らぐ間はなかった。小さな子供連れの家族などは特に性質が悪い。無邪気な子供らは野良の猫達を一撫でしようと乱暴に手を伸ばすし、猫の領土へ無作法に踏み入るし、有難迷惑にも餌をやろうとパンの破片などを投げ散らかす。ぐったりとくつろいでいた野良の猫達は瞬く間に身体を強張らせると、近づく人間の一挙動ごと警戒して八方へ逃げ去ってしまう。
侵略者の前に成す術無く楽園を追われた野良の猫達。彼らは次なる避暑地を求め旅立ってしまうのか。子供達の魔の手にあとニ〜三日辛抱して、祖母のためにちいさな庭の領土を死守してほしい。
さて今日も野良の猫達はおっぴろげに大胆に、ピンク色の肉球を包み隠さずあらわに見せびらかしていた。その様子が全く破廉恥極まりない。子供達が悪戯したくなるのも頷ける。