937. 男のメガネは賢者の石

時は2005年、夏。情報社会の世に空前の「メガネ男子」ブームが巻き起こった。
イケメンメガネを黙々と狩り続ける女達は言う。「メガネの似合わない男は、ただの豚だ」。メガネなだけで狩られる非モテだった男達は言う。「モテているというか、動物園の動物じゃないかコレは」。世はまさに、イケメン・秀才・萌えフェイスのメガネ男子を巡り、狩る女と狩られる男の新世紀へと突入した。


素人でも分かるメガネ男子のモテブーム


だけど現実の「メガネ男子層」は、オシャレのためのメガネよりオタクのためのメガネが半数以上を占めると思うのですよ。維持費が安い分だけ趣味のグッズに金を注ぎ込む、昔から眼鏡だったので惰性で付けてる、ファッションに気を遣わない、など。そもそも、女性達が愛して止まない(病んでるけど)『メガネ男子』とは、オシャレメガネ派男子がターゲットのハズでした。

しかしインターネットなんぞで広がった手前、オタク男子達による誤解と情報操作によって「メガネを付ければ誰でもモテる」「メガネがモテ・ステータスになる」と、『メガネ=モテ』のイメージだけが先行しました。

一方で日本人女性ってば、良く言えば流行に敏感、悪く言えば噂に流されやすい性癖を備える生き物なものだから、「メガネ男子が熱い」騒がれれば、メガネ男子クンの好感度は一気急上昇。しまいにはメガネ付いてりゃ『寝てもいいかなリスト』にブックマーク入りも夢じゃない! メガネのカリスマ性恐るべし。


かくして、女性側の需要は上昇の一途を辿り、ここにメガネバブル期が到来したのです。


メガネを付ければ桶屋が儲かる。これまで非モテの道を歩み苦汁を飲んできたオタク系毒男クン達も、メガネでモテモテのイケメンへ大変身です。ついでに視力が回復して、学校の成績も良くなり、駅の上り階段ではパンチラに遭遇して、電車では良い香りのする綺麗なOLお姉さんから痴女に遭い、身長も5cm伸びたしすね毛も薄くなったし宝くじも大当たり連発、ついでにセックスも上手くなるといいさ。

当初メガネ男子=オシャレメガネを意味したものが、流行によりメガネ男=オタクメガネにすり替わる。これぞ、禁断のメガネマジック。オタクをモテ男に変身させるメガネとは、まさに現代の錬金術です。なんてお手軽な賢者の石だ。オレも幼なじみの機械技師と恋愛未満のいじらしい関係に落ちたり、怒ったら火を噴くインテリ上司に陰で支えられながら、鉄鎧の弟と賢者の石(メガネ)を巡って壮大なストーリーを紡ぎたいよ。アニメに映画にコミックス、果てはグッズまで売れに売れて印税たっぷり、きっと老後も安心です。


最近視力が落ちたからデスクワーク用メガネを買おうと思った矢先、こんな妙なブームが形成されていて、「いや待て、今メガネに走ったら勘違いヤローに分類されはしまいか?」と不安でたまりません。だけど早く職場メガネが欲しい。ああ困った…。