875. 親指世代

例えば電車の切符自販機。オレは中指で押すんですよ。おそらく20代中盤以降の方は、皆さん人差し指ないし中指でボタンを押すんじゃないですか? ジュースの自販機、銀行ATMのボタン、パソコンの電源、電気のスイッチ、インターホン……ありとあらゆるスイッチ・ボタンを、私たち昭和世代は、人差し指や中指で押すことでしょう。

しかし、現代の中高生の若者、いわゆる平成世代の大半は、親指でボタンを押すことが常識になっています。常識というか、平成世代にとっては親指押しは本能化しています。あるいは、最近入学したての大学生でさえ、親指押しこそ多数派かもしれません。

タッチパネル式の切符自販機をわざわざ親指で押す。ジュースの自動販売機の小さなボタンをわざわざ親指で押す。TVやエアコンのリモコンだって親指。明らかに人差し指や中指の方が長くて無駄な動きもないのに、わざわざどうして、回りくどい親指押しを無意識にやってしまうのか。察しの良い方はすぐに気付かれたでしょう。

その背景には、携帯メールの普及があります。

若い世代の彼ら彼女らは、携帯電話の操作を片手親指で、さもタッチタイピングのようにスピーディにこなします。親指によるメール操作に慣れすぎた所為で、無意識のうちにボタンを押すときは親指という本能が焼き付いてしまったのです。若い新入社員、あるいは学校の後輩に聞いてみてください。きっと彼らの大半は、親指使ってますよ。

だからどうした、親指の方が使いやすいなら、させておけばいいじゃないか。という意見もあることでしょう。しかし我々『長指世代*1』にとっては、今後の数十年先を想像すると、あまり楽観視してられないかも。

親指世代は、人差し指や中指でボタン操作することに慣れません。時が経てば、それが次第に社会の常識となります。すると、社会は今まで浸透していた長指世代のインターフェイスから親指世代のインターフェイスに転換されてゆきます。

一例としてデジカメを。現在のデジカメは人差し指でシャッターを押すのが常識です。しかし、携帯電話の写メは親指でシャッターを押すし、親指世代は長指操作に慣れていません。デジカメのインターフェイスは次第に「親指ありき」の外装へ転換されゆくでしょう。これから先の主流で、機器のリモコンもPCのマウスも変形するし、まだ見ぬ未知の大発明も、そのインターフェイスは長指世代を虐げる親指世代の形状を取る可能性が高いです。

何を馬鹿げた…と思われるかもしれない。でも、今の社会は、古い世代の操作能力を無視した機器を次々発案し、世に浸透させています。二十年後。『微細な親指操作』がさも当然となった社会の担い手達は、私たち「長指世代」の操作能力を無視した外観設計、発明を次々繰り出すことでしょう。

きっとその時自分たちは、多くの機械が操作しにくい事に嘆くんでしょうね。今でいうタッチタイピングの出来ないオジサンの如く、『親指操作もろくにできない無能なオジサン』呼ばわりされたりして。親指矯正学校みたいな場所で仕事後スクール通いしたり。

いやまあ、最後の方はかなり大げさに妄想しましたけど、あながちあり得ない訳でもないでしょうよ。数十年後、今の平成世代達がメインとなって機器のモデル設計を考えたら、おそらくは「片手親指操作ありき」のインターフェイスになるでしょうから。

*1:人差し指・中指など長い指でボタンを押す世代