1574. 日本人と有給休暇の悩ましい関係 - 三つの原因

今回テーマにした有給休暇の話題は、語ると思いの外長くなった。結論だけ知りたいせっかちさんの為に、先に結論を述べておくよ。オレが個人的に思う『日本人が有給休暇を取らない理由』は、以下三点。この三点が導き出す解は、要するに「休んでも仕事は減らない」ってこと。以上!

  • 人件費削減による「替えが居ない」職場
  • 作業分担化による「替えが効かない」仕事
  • 国内業界における「日本人」のブランド力

詳しくは続きを読んでね。


有休消化率100%の人もいれば、限りなくゼロに近い人もいる。どちらが正しいと問えば、そりゃ前者だ。だけどこの世の中、きれい事や理屈だけじゃ解決できないプラズマ現象は無数にある。職種・役職・立場によって、正解が逆転するカオスな現実も、ままあると思うんだ。

オレは学生時代、「日本人が有休を使わない」のは、単なる狭っこいナショナリズムな精神論に由来すると思ってた。なあなあ主義で、出る杭を避けて、集団に紛れて個人をぼかし、社会の歯車でどっぷり回るのが大好き。そんな日本人の特性が、有休取得を阻害してんのかなと。まだまだ坊やだった。

社会人になり、その理由はずいぶん明確に見えた気がする。こんなの、社会人・小学二年生のオレが言えるセリフじゃないけども。有休を使わない原因、そのキーワードは「競争社会」「人件費」「効率化」っていろいろあると思う。だけど最も根深いのは『日本人だから』だと思うんよ。

だって日本人は皆、世界一「日本語のプロフェッショナル」なのだ。


記事元や世間の風潮ではどうも「休めば仕事が減る」を前提にされてる。だけどこのご時世、そんな境遇に身を置ける日本人は、なかなかのレアケースと思う。「有休消化率100%」が実現できる会社ってつまり、誰かが休んでも替えが効く業種・役職なんだよ。*1

特殊例として、一人働けば百人分の利益になる最新鋭、あるいはニッチな企業がある。そうした企業に属する日本人は、例え『替えが効かない職人』でも、有休消化の事情には明るいかもね。極端な話(先を考えなければ)一ヶ月働いて、残り十一ヶ月ニートでも平気だから。

でも普通の大多数の日本人は、普通の国内企業に就職して、普通にヒィヒィ言って働いやんの。プッ、バーーカ、バーーーカ!(自分含む)


(序)日本人というブランド

日本人は、日本語を「読める」「書ける」「対話できる」。ただこれだけで、高位のブランド力を備えている。世がグローバリズムを唱えても、やっぱり日本人は他国語がヘタっぴなんだ。国内企業とお付き合いする場面では、日本語ありきで商流が進む。

商流の中では、日本語というマニアック言語で会話し、マニアック言語でマニュアル書を読解し、マニアック言語でドキュメントが書く。これを苦もなくマニアックこなす人種は日本人だけ! ジャンプみたいな売り文句、これが日本人の価値。

え? 今のご時世、海外の方も流暢に日本語を使えるって? きっと、その方が日本で働いたら、日本人扱いされて有休取れないと思うよ…。


(破)現代企業の有り様
現代型企業は、人件費削減と作業効率化で利益を捻出する。日本人を正社員に雇うと、「その人の代用品」を雇う余裕はない。だって日本人、人件費が高いんだもの(※超重要)。二人の日本人を雇用したら、二人分以上の仕事を積む。替えが効く『鉄砲玉ポジション』には、海外の低賃金労働者か外注さんか、バイトくんを配置する。

昨今、日本人のプログラマ、アニメータ不足を話題にするニュースが非常に目立つ。この手のニュースが示す警鐘は、日本人に高スキルの人材が居ない…という意味では決してない。企業は人件費削減のため、単価の高い日本人を雇えないの。一方の資格もスキルも備える職人さんは、『こんな安月給で働けるか!』と反発する。

日本人ニートだって、皆が皆、ニートになりたくて働かないんじゃない。今の日本企業に、全ての日本人技術者を確保するゆとりがないわけですよ。結果、多くの職場は慢性的な人手不足に苦しむ。このしわ寄せは現場に発生する。一人に割り当てる仕事量はとんでもないことになる。

長時間残業の正体、しいては「有給休暇を取れない理由」は、人件費削減による労働者の高タスク体質が、一因になっていると感じる。

日本人正社員の「俺が休んでも替わりが居る」時代は、バブル崩壊と共に次第に消滅した。今や正社員サラリーマンは、替えの効かないポジションに置かれる。いわば、一人一城主時代。各々分配された仕事を、決められた期限の中、各人が自己管理して仕上げることになる。休んでも仕事は減らない。


(急)スペシャリスト
現代型企業が提唱する利益捻出策は、「人件費削減」の他にもう一つ「分業効率化」がある。これは日本人に限ったコトじゃない。職場にデジタル処理を導入できるIT・マスコミ・コンサル・ゲーム・アニメ業界は、この傾向が非常に強いんじゃないかな。

人手を極力削り、プロジェクトを個別の小仕事に分解し、小仕事を作業者に分配し、期限を短縮し、標準プロセスを守り、こうしてギリギリまで効率化を求める。これを突き詰めると、各界のスペシャリストへ仕事をまるっと投げて、スペシャリストが期限内に成果物を仕上げる業務となる。

あるスペシャリストが一人有休を取ったとする。しかしながら、その人の仕事は、他の誰にも処理できないよ。他者に専門外の仕事をさせると能率が落ちてコストダウンアップ(誤字指摘ありがとうございます)になるもの。第一、各スペシャリストは自分のタスクだけで精一杯なんだ。

ここで、冒頭に触れた『日本人は日本語のスペシャリスト』とリンクする。人手不足の日本企業において、日本語のスペシャリストである日本人は、どれほどの高負荷を伴うだろう。考え出すと『聖水ぷしゃあぁあ』なので、ここいらで思考停止することにする。

こうして日本人は、このタスクスパイラルから逃れられない。


自分の場合
最後に、IT業界に生息するオレの場合。

PLという立場も相まって、他の誰かに丸投げできる仕事は極めて少ない。PM&PL以外は外注さんだから、取引先対応も、社外秘の文書作成も、他の方にお任せできない。もちろんPM様は、PM様のお仕事だけで超フルスロットル。かくしてオレは、三日有休を取ったら、残り二日で一週間分の仕事が待っている。有休を取ったら、土日に出勤しなきゃカバーできーん! これが実態。
そりゃもう、有休なんて取りたくないよ…。

*1:出た! はてなユーザにご好評の決め付け口調!