1430. 隠し味は想像力

出張の間、仕事帰りはタクシーを利用するのが常だった。午前3時や4時の明け方ともなると、この時期でも冷える。タクシーの待ち時間、コンビニの肉まんを頬張るのが日課になった。その肉まんの味は懐かしかった。

思えば中学・高校と、部活帰りに買い食いした肉まんの味は絶品だった。日は落ち薄暗がり、寒空の下で頬張るそれは、自宅で作る物とは全く違う風味に変貌する。夕食前の空腹感がもたらす美味しさとも違う。そう、あれは想像力の味。

めちゃイケで「目隠しで味見して料理を当てる」コーナーがあるが、あれはことごとく外れる。別段やらせではなく、食事は本来、視覚を伴って完全な味わいをもたらす。対して、下校時に暗がりで頬張った肉まんは、本来備わるポテンシャル以上の美味を秘めていた。なぜか。

寒冷、腹ペコ、その手には熱々の肉まん。対象物を視覚できずとも、事前に何であるかの認識があれば、人は時として想像力だけで、本来以上の素質を解き放つことが可能なんだ。自宅では決して破れない味。中学生、高校生の思い出の中でしか存在し得ない味が、今も脳裏に残ってる。