1387. おいでよ、似非関西弁の森! - 004

03/18 02:44 内容を一部修正しました。

【これまでのあらすじ】
森の奥底にひっそりと佇むユキツバメ村。
その村では平然と麻薬の原材料が飼育されていた。

たぬきちの勧めもあり、村人へ挨拶回りをすることに。まずは村役場に訪れ、村長の亀に声を掛けた。氏はご老体の身でありながら、この村の誰よりも静かな殺気を放っていた。この人を甘く見ると消される──。その異質な迫力を痛感し、今後、村長のことは【武天老師様】と呼びたい。

その後も博物館や関所など村の施設をぐるりと回り、ほどなくして仕立て屋を訪問した。ここの店員はオオカミの姉妹らしい。ハキハキ明るい”きぬよ”と無口で職人気質の”あさみ”。暫くきぬよと話を交わす内、違和感を感じた。

「マイデザインは8個までしか持てないんよ」「あら、そうなん?」

この子、関西人なんだ! ……いやしかし、他の対応ではごく自然の標準語を話している。なにこの中途半端な関西弁。こち亀の大阪編に似たあの雰囲気。どっちですか。あなた達は一体どっち側のどうぶつですか。


それは10年前のおはなしです。

双子がまだ幼い頃、二人は関西でも指折りの富豪の娘に拾われました。それは大層な可愛がられよう。何一つ不自由ない生活が、そこにはありました。

しかしその生活は突然、終わりを告げます。娘の父親が株に失敗し、多大な借金を余儀なくされたのでした。ついに屋敷も売りに出され、きぬよとあさみも手放されることになったのです。

娘は泣いて縋ります。しかし両親は意見を頑として曲げず、とうとう娘も「これ以上、二匹と一緒には居られないんだ……」と、そう観念しました。

お別れの夜。その日は厳しい冬の日で、凍えるような寒さでした。今の娘には、寒さを凌ぐに十分なコートもありません。しかし娘は健気にも、きぬよとあさみが風邪を引かぬよう、二匹を抱き締めて眠るのでした。その晩、一人と二匹から、涙が枯れることはありませんでした。

双子のオオカミはサーカス団に売られました。

裕福な暮らしに浸かった二人に、そこでの生活は過酷を極めます。芸ができずに何度も鞭打たれ、ついに妹のあさみは人間不信に陥ったのです。そんなあさみを、きぬよは毎日元気付けました。きぬよに笑顔が戻るまで、二匹分の元気を背負うことに決めたのでした。

ある日、双子のオオカミはサーカス団から脱走します。山を抜け、川を越え、深い森に入り……。風の噂によると、二匹は人知れぬ村に入り、毎日毎夜服を仕立てているそうです。

双子を拾ったあの娘に僅かばかりでもお返しがしたい。お別れの夜、必死に暖めてくれた娘を、今度は自分たちの服で暖めてあげたい。

──彼女たちが仕立てる服には、そんな優しい気持ちが込められています。

あったかいね、エイブルシスターズの服。

あ゛さ゛み゛ー! き゛ぬ゛よ゛ー!

あさみ「話の腰を折るようで悪いんですが。わたしたち、ヤマアラシの姉妹やねんけど……」