1292. 「守る文化」は気を遣わせる

文章やイラストのセクハラはまだしも、絵文字までセクハラ対象になる時代です。

絵文字だけでセクハラ行為の烙印を押されたわけではありません。ハラスメントの対象は主に三点。こんな見出しだとどうも絵文字に気を取られるけど「不快感を与えていると認識しながら続けていた」という一点がキーポイント。

  1. 「教授が女性職員に対して行為した」立場の利用
  2. 「嫌がってると判りつつも」故意の罪
  3. 「文章+絵文字」はその文章や言い回し、加害者側の意識がそもそもの問題


…しかしなあ。これが罷り通ったなら、もはや異性に関わらず、手広く裁いていけそうッス。「上司と部下」「先生と生徒」「親と子」であっても、不快感を与えていると認識しながら何らかの行為を続ければハラスメントの対象になるってこと。主題をすり替えすぎの感はあるんですけども。

こういうニュースが出ると、「被害者の女性も、ちょっとやんわり断れば大事にはならなかったかもしれないのにね」って言う人も出るんです。まあ無理っしょ。職場だもん。きっと彼女は二児の母で、寝たきりの実母も養い、夫とは既に離婚済みで、女が40歳過ぎて職場失ったらまずパートしか残ってない日本で、言えるはずがない(設定は脳内妄想)。

「教授のハート絵文字は見苦しいので止めなさい、こーの、脂ののった醜い白豚が!(可愛らしい小ブタの絵文字)」とか送信できるハズがない。それを読んだ教授が「…あ、愛欲に溺れた卑しい白豚のわたくしめに…厳しくも汚らしい叱咤をもっとぉぉ!(懲りもせずハートマークの絵文字)」と興奮するかもしれないけど、そんなジャガーさん的神展開はまず起こりえない。

日本は富みやら平和やらのぬるま湯に満ちた結果、娯楽型オタクとニートとフリーターを量産したと言われます。同様に、個人一人あたりの価値が高まりすぎ、医療や法制度による「個を守る文化」も極まりつつあります。こうして整いすぎた「守る文化」の規制は、一見して個の行動の自由度を高めながら、一方では他と接する自由度を蝕みます。


オレも度々、時事ネタを肴にして「日本って生きにくい世界だなぁ」とぼやくのですが、その起因は「守る文化」にこそあります。


ちょっと外出するにもTPOを気にして、マナーを守ってお上品に、寝癖は直して、服はダサすぎず、食べ歩きも立ち読みも咥えタバコもNG、ケータイの電源は切って、お店では客ながらも敬語に標準語で応対し、他者の気分を害さずルールを破らず、そうやって生きなければタダじゃ済まされなくなる社会。もうすぐそこまできてるかも。100年後かも。こないでほしい。だけど生理は毎月定期的に来て欲しい。一週間遅れると仕事も手に付かないよね、特に男の方が。

だからね、『ちょっとした絵文字の交流がセクハラ犯罪になる社会』を背景にして、上司に対しやんわり断りを入れるとか無理です。先ほど述べたとおり、日本の「守り文化」は自分を守りつつも、他への接しやすさを規制しているのですから。「あの人は教授だから断りにくい…」という気持ちが強くなりすぎるのは、日本に住む以上当然なんです。

嫌悪に感じたことを「ハラスメントとして取り締まる」法の規則は、周囲に気を遣わざるえない壁を着実に築き上げているのではないでしょうか。…築き上げているんじゃあ、ないでしょうか。最後はJOJO締め。*1






従いまして、いつも定期的にくるはずの彼女が今月は一週間も遅れて「あの時って、アレでキチンとあれしてたよね…? あの日のあれって、確かに単なるアレだったんだよね? ああいう風にはなってなかったよね? たぶん破れてなかったよね?」と電話で切り出して相談しにくいのも、きっと「守る文化」の弊害です。

*1:今日やっと第二部が読み終わりました。第三部も楽しみー。