296. 第28回 - そして池田屋へ

祇園祭の騒々しい賑わい。池田屋の二階建て巨大セット。それらを取り囲む人の数とあの時代の風情。そういった池田屋事件の背景にはものすごく力が入っていて、完成度の高さを感じました。逆に殺陣におけるリアリティ(血飛沫が噴き出したり刀や衣服が赤に染まる、破損するなど)は非常に低く、そのあたりに期待していた多数の視聴者は不満を抱いたかと思います。もちろんオレもその一人です。昔の時代劇と違って、今じゃ民放でNHKなら仕方がないのかなとも思います…。これがR指定の劇場版で描かれていれば、もっともっとリアルに描けたかもしれないですね。

強い志を持つ者同士が斬り合い、その一方が倒れていくという光景は、殺陣の立ち回りレベル云々ではなく絵になりドラマになります。新選組!の様な、隊士や敵浪士の各個人まで視点を絞り、各々の野望や意志を深く書き込んでいる作品では、キャラ対キャラが斬り合うこと自体が熱くて、怖くて、身が痺れて、どちらも応援したくなります。言ってしまえば、今回の池田屋チャンバラの完成度自体は低いと感じました。しかし、斬り合いに潜むドラマとしての完成度は高かったとも感じます。亀さんが「近藤ー!」と叫びながら最初に切り込む姿が切ない切ない。もう少し照明があれば、誰が誰と斬り合ってるのかも認識できたのに。そしたらもっと思い入れを込めて斬り合いを観ていられたのに。誰かを認識できるくらいの演出だったら、ドラマ完成度は抜群の域に達していたかも知れません。

オープニング。計画性を持って周囲から固めたい山南総長vs新選組の勝ちにこだわり譲らない土方副長。山南さんが怒鳴りあげ、周囲が唖然と。なんで山南さんはここで怒鳴りあげたんだろう? あまりにも土方の一方的で思慮の浅いやりかたに、もう我慢できなくなっちゃったんだろうか…。今後山南さんがどのような形で崩れていくのか、とっても心配です。二人とも、新選組と近藤さんを時代の中心に乗せたい思いは同じなのに、どうしてこうもズレていくのか。それって、土方・山南に限らず、藩内の覇権争いにも藩同士の勢力争いにも言える事なんですよね…。全てを切り捨てて、実際に自由行動できる坂本龍馬のようなつよーい人間は、そうそう居ません。

武田観柳斎の活躍。オープニングでも一人正論を述べたり、それが採用され、かつ功を奏したり、今週のMVPは彼かも知れません。軍師なので近藤隊に付きましたし、軍師なので実際に斬り合う事はしませんが、今後の武田の活躍も軍師なのであなどれませんね。

広沢様の葛藤。なぜかネットでは広沢様人気が高まっているのですが、今週は広沢様も案に活躍していていました。会津藩が応援を渋り新選組を見捨てる決定に広沢様は思わず戸惑いしょんぼり。この人も、すっかり近藤の人柄に飲まれてしまったのでしょうか。八十八の禁門の政変の時には新選組の事を適当に扱っていた感がある(近藤を待たせたまま数時間放置)のに、最近では新選組びいきが見え隠れしていて、視聴者としては嬉しくもなりますね。葛藤の末、ついに広沢様は祇園会津藩の加勢を待つ新選組の元へ駆けつけ「いくら待っても無駄だ」と告げて…広沢様人気がまた上がっちゃいますよ。今後も新選組は広沢様に助けられそうですね〜。

象山先生と桂先生の対談。桂さんも今回の件に同調していると思っていたので、実は説得する側の立場だった事を知りびっくりしました。先入観でモノを観てはいけませんねー…。結局、今は幕府に雇われてるんですよね? 月15両で馬鹿にするなと断り、今は月給いくらで働いてるんでしょうか。象山先生の価値が気になります。桂さんの長州にきて欲しいというお願いを断り、逆に桂さんを労る先生。象山先生って、坂本さんと同じで自由奔放に動いてるけれど、そのくせ人の事を深く理解していますよね。坂本さんに対しても、近藤さんに対しても、桂さんに対しても、同じように優しく労り諭す。この時代ではまずありえないような気がする象山先生ですが、実在したのだから彼こそ理想の先生です。

捨助の動き。既存のキャラではフォローできない史実の部分を、フィクションのキャラ・捨助を使って上手く立ち回らせた脚本が絶妙。桂に酒を引っかけるアレも史実(有力説の一つ)で、桂さんは着替えるために一旦藩邸に戻ります。ここで捨助を投入して、前回の佐久間と捨助の繋がりから、桂(長州)と捨助の繋がりを作った伏線が実に巧み。来週は象山先生の事件と長州挙兵の話なので、捨助はどちらにも必ず重要な部分で絡んでくる事になりますね。

見張りの魁さんと浅野薫。浅野が「私も刀を持って皆に斬り込みたいですよ」と熱意に燃えるものの、魁さんにたしなめられる。斬り合いの経験者と未経験者の壁が浮き彫りです。こういう事いうヤツに限って実践では使えないヤツなんです、もはや王道。雑談中に今件の首謀者・宮部鼎蔵を発見する魁さん。しかし人混みの多さで見失ってしまいました。

隊分けの話し合い。武田さんは本当に自己主張できる人だなと。実力が伴っていれば申し分ないので、現時点では問題ないように思いますけど。土方「あんた決まってるのか?」の問いに武田「軍師ですから」の返事。軍師ですから、には突っ込まないんですか、ツッコミ隊長土方さん! 谷長男の「承知」「すまん、あんたじゃない」って、長男・三十郎の徹底スルー。こういう天丼ネタ好きです。谷昌武はいつになったら正式な養子になるのでしょうか? 佐之助「オレは!?」の不満に近藤局長「全部もらうとトシが拗ねるから」って、この部分思いっきり婦女子アピールしてね? 『ひでくんの拗ねたトコ見たーい(萌)』って奥様が急増したに違いないです。このセリフだけで一週間は悦な表情浮かべられちゃいますよ。

御用改めの捜索開始。新選組の隊士達はすげー緊迫しているのに、丸裸の子供達がズザザザと目の前を横通り…。京の町は普段と変わらず平和ですものね…緊張感のかけらもありません。きっと隊士達はドラマ以外でも何軒も回り巡っていて、普段通りの町人を目にして、「御用改めである!」って大声のセリフがどんどん恥ずかしくなってしまうんでしょうねー…。河合の「これってたまんないなぁ、もう〜」も頷けます。

一方敵浪士達。ドラマで紹介されたのは首謀者・宮部鼎蔵と、松陰門下の三秀・吉田稔麿(残り二人が久坂玄瑞高杉晋作)、それから坂本さんと一緒にいる事の多かった土佐の望月亀弥太。他にも名だたるメンバーがいる(池田屋事件の殉難七士として、宮部鼎蔵吉田稔麿、杉山松助、松田重助、北添佶摩、大高又次郎、石川潤次郎)のですが、とても全員をカバーできるような時間もなく、極力現在や今後の主要人物に絡む人間だけをピックアップしたのでしょう。吉田さんは人気が高いみたいで、この人はもう少しドラマで掘り下げて見てみたかったな。

池田屋の御用改め。名シーンが多いのでポイントごとに軽く触れる程度で勘弁して下さい。

平助の「御用改めである」声がうわづっていて緊張してるの丸分かり、若いんだなぁ。沖田が武器を発見し、主が裏階段に上がるのを目視。年少コンビががんばりました。

走れ!昌武くん。土方隊に池田屋の件を知らせにダッシュ。土方隊を発見後、今度は松田達の隊にダッシュ。史実では全然使えないヤツだったと言われていただけに、意外に活躍しちゃってます。ドラマ新選組!では、昌武くんは使えるヤツとして描かれる方向性なのでしょうか。

裏庭の悲劇。裏庭には平隊士三人+大口叩いた観察方の浅野。浅野はやっぱり使えないヤツで、木陰に潜んで隠れているだけ。情けなくて救いようがないとは言わないけど…隊決めの時の威勢は何処に行ったんだよー。裏庭から逃げれば長州藩邸(藩邸は治外法権で取り締まり介入は不可能)に近く、敵浪士達は逃げ切れると思ったそうです。おかげでこの裏庭からは次々に敵が出てきて、修羅場と化しました。ドラマで最初に斬られたのは奥沢栄助。哀れ、最初の犠牲者。その後も安藤早太郎、新田革左衛門が斬られ重傷。裏口だから平隊士に回したのでしょうかねー…。奥沢は死亡、安藤・新田は重傷、この傷がきっかけで一ヶ月後死亡します。

平助の額割れ。池田屋事件ではとんでもなく有名な出来事なんですよね。平助が額の装備を外す時、視聴者の多くは「平助ー!それは外すなー!」って心の中で叫んだと思う。分かっているだけにきっつい…案の定ズバっとやられて血みどろに。新八の「へいすけー!」って叫びが切ないです。先週の件があるだけに余計切ない…。

二階を一人で受け持つ沖田。殺陣の立ち回りは賛否両論ですが、3対1(史実では4対1なので、4体1だった?)でも逃げずに毅然と振る舞う沖田はすげー格好良く映りましたよ。二人の刀を同時に受け止め、背後から亀さんが刀を振りかぶり大ピンチ…! でも天柱に刀を引っかけちゃいます。これ、芹沢最終バトルの時、沖田も同じ事やったんですよね。この沖田の戦い、なんちゅう熱い演出してくれますかね…!

亀さんの背中を切り追いつめたが、沖田喀血。うっはー切ない。新選組に興味本位と仲間はずれにされるのが嫌で付いてきた沖田。ここで一番最初に『死亡フラグ』が立ってしまいます。あじさいが赤く染まり、そして謎のCG…いやいや、ノーコメント。(個人的には、悲壮な演出としては良かったとは思いますけどね)

新八も指を負傷。「なんのこれしき」と戦える事をアピールするも、「無理はするな」と近藤さんに窘められる。平助・沖田・新八が戦線離脱、近藤局長は中庭で絶体絶命のピンチ。そこへ駆けつける土方、一人斬って「待たせたな」。全然間に合ってないけど、かっこええー(昨日も言いました)。

土方「かっちゃん、後ろ!」に近藤さんもあうんの呼吸で背後の敵を一刀浴びせ。せっぱ詰まると「かっちゃん」っていうのダメ! 全国の奥様方が萌えるからダメ! 近藤さんもあうんの呼吸で反応しちゃダメ!

浅野とは反対に魁さんは無敵。ガキィン、と敵に斬られて「ん?」まあいいかと反撃の粉砕斬り。また別の敵からガキィン、と敵に斬られて「んん?」まあいいかと反撃の粉砕斬り。無駄に大振りしすぎてるよ! でも魁さん強っ! こういう人って、小さい子に人気が出そうですよね。

血まみれの沖田を発見する新八と佐之助。この二人が目撃者となるのか、ううーん。なんとなくこの人選、うなってしまいますね。「みんなには言わないで。お願いだから」激しく切ない。予告番宣のこのセリフで泣きそうになったもんオレ。沖田が運び出される時、佐之助がけろっと嘘をついちゃうところなんて、佐之助らしいというか…こういう軽いヤツだからこそ出来ちゃう演技だったのかも。

亀さんこと望月さんの逃亡。町娘に騒がれながら、長州藩邸に助けを求めるが拒絶される。」「どういてぜよ」と泣き崩れる望月さんが、これまた切ないんだ。このシーンは史実通り。長州藩邸に救いを拒否されて、藩邸前で自刃するのも史実で…史実なのに感動シーンのための作り話っぽく見えるから、ほんとすごいや…。

池田屋ラスト、首謀者宮部VS局長近藤。信念同士のぶつかり合いです。宮部は未来人かよってくらい近藤達の未来を言い当てちゃいます。ドラマだから仕方ないですけど…。「生き方に一点の曇りもない」と強く意気込んだ近藤局長。宮部の前では『新選組局長』の立場としてああいったけれど、個人近藤としてはどうなんでしょうね?

最後の宮部は、近藤に斬られるように散って行かれました。ほとんど自刃のようなかたちでしたね。

遅れてやってきた会津藩の応援に、土方がいきり立つが近藤局長が抑えて。言ってやりたい事は山ほどありそうですよね、土方さん。結局冒頭で山南さんが「会津藩にも応援を要請した方が」って、無意味だったんだから。土方さんの論で、自分たち新選組だけで勝ちにこだわったやり方で事件を解決したんだから。こりゃ、大分鬱憤たまってそうです。

翌日、おりょうが坂本さんに事件を説明。坂本さんのぼやきはこの上ない正論で、正しさの観点では誰も否定できないと思います。でも、近藤さんは新選組を背負っていて、桂さんは長州藩を背負っていて、望月さんもあの組織に加わり世直しの一旦を背負って。何かを背負ってしまった人間には、下にいる人間達の期待や願望を導かねばならず、坂本さんのような意見は通用しないものです。そしてまた、坂本さんのように何者にも束縛されず、強く自由に生き抜いていける人間など、あの時代も今の時代も一握りしか存在しないでしょう。象山先生や坂本さんのような強くて自由な立場だからこそ言える正論、それがあの「どいつもこいつも、みんな馬鹿じゃき」という悲しいぼやきだったように思えました。

で、ドラマを見終わった後、土佐弁で喋りたくなってたまらんぜよ。坂本さんで締めくくられると、土佐病に感染するじゃきに!<絶対に用法を間違ってる。