1481. 先行感想 - みえるひと 第41譚「バオ」

一般のWJ漫画だと、異なる思想が衝突したら、バトルの勝者が正しいという結論に至ってしまう。しかし、今話の「みえるひと」の作風は、その例から逸脱する。バトルはバトルとして決着しながら、うたかた荘の皆は敵側の意思を汲み、考えた。

「人間願望」の思想概念について、理由や感情を理解する姿勢が嬉しい。なにより、今シリーズを通して岩代先生の伝えたかったメッセージ性が具体性を帯びている。

一つの戦いを通し、登場人物が「何を理解したか」を丁寧に描写する作品、オレはすごく好きですよ。その人物に感情移入する読者は、人物を通して読み手も「何か」を理解した気持ちになれる。それって創作物語ならではの文化です。素敵な文化だと思います。先週のデスノートとはうって変わって、作者なりに考えていた「解答」が分かりやすいッス。

今話は、久々に岩代先生の魅力全開でした!


バオの思念
バオ視点から周囲の環境へ疑問を抱き、なぜ自分だけ奇形なのか疑問に思うイントロは、説得力がありました。冒頭だけで人間願望を抱いた理由は察します。陰魄になった理由は気になるけど、結果として「あの人間の所へ行ってみよう」という気持ちを抱いた。陰魄として幸福な末路に至ったと感じます。頭も回らず、能力もなく、仲間からいいように利用され、そんな陰魄・バオだからこそ、この結末に『救い』を抱きました。


アズミの使い方
誰かに従属することでしか動けなかったバオは、最期の命令を思い出して姫乃を襲う。しかし姫乃の言葉に感化され、バオの怒りは浄化される。この一連のシーンには、何重もの意味が隠されている。

  • 姫乃は陰魄に救いをもたらす存在である可能性。
  • バオが初めて、誰かの命令に従う呪縛から解放されて、自意識で行動したこと。
  • ツキタケの過去回想編に直結した救いの言葉。
  • ツキタケをなでなでするガクに悶えまくる大きなお姉さんたち

「輪に入れて欲しい」「同じだから好きになる訳じゃない」短いやり取りの中に名言の応酬もよかった。でも、今週のトップ賞はアズミに譲るしかないよね。

地下の戦いも、陰魄や人間願望の陰謀も、バオの思想も、一切の事情を知らないアズミが、ゾウさんをみて(ヤッベ、伏線消化やん!)ママに報告。「うたかた荘総力戦」の謳い文句が、これで完全なカタチになったと。まとめが上手すぎるぞ。アズミとのふれあいでバオがトドメを刺された!(オレもトドメを刺された!)


その他の見所
今週のコメディパートは、今までのような浮き足だった雰囲気がなく、普通に笑える内容でした。肩の力が抜けてきたのかな?

  • 「ポパイみたいになっとる」ってその謎明かされないんだ今週。すげー気になるッス。
  • 「あんな子供を産もう 可愛いから!!!」こういうセリフを硬派な女性から聞くと惚れちゃうなあ。
  • 「下手に出るとあのドエロ!!!」されたんだ? 思い出すと真っ赤になるほどエッチな事を仕込まれたんだ?
  • カバンを忘れて「戻る?」と促す紳士なガクがマジカッコイイ。
    • もう付き合ってしまえオマエら!
    • いつまで経っても高校に登校できない「女子高生」姫乃。
  • 「エロいねーちゃんきた…」読み切り時のお姉さんだったら、もっと熱烈に突っ込んだのになあ…。
  • 「ケガのひどいヤツからパッパと行こうか ん? コイツか?」
  • 見た目はドS! 中身はドM! 澪さんはかなり躾甲斐のあるお姉さんと見たり。
  • コモンとのバトル中は、陰湿なほどひっぱり倒した雪乃の謎。思いきりアッサリ解明しちゃったー!

バトルではなく情で陰魄を浄化しちゃうし、ギャグは面白いし、展開はスピーディだし、伏線の消化はキレイだし、今まで願望してたことが一気に全部叶った気分。というか、今まで逆のコトしてたんだもんね…。岩代先生はホント、バトル向け設定の作風で損してると思うよ。