456. 体験記



 
三閃の光筋がモンスターを撃ち抜く。
しかしなお、敵は踏みとどまる。さすがは体力バカの高装甲。
そればかりか、凶悪な筋肉をしならせ大振りの一撃で反撃してくる。
僕はふわりと身を翻しつつ、精神を澄ませて攻撃を繋ぐ。
「連打掌!」
ドドドドドッ、と続けて五撃。
無形特化を帯びた僕の拳は、アラームの身体を容赦なく砕いた。


 
ここアルデバラン時計塔を修行の拠点に移して、今日で二週間になる。
多くは旅の休養やアイテムの調達、装備品の手入れに要した。
修行に徹するのは、今日が実質三日目だ。
三度目という事もあり、この時計塔地上三階の雰囲気にも、ようやく慣れてきた。
まず、冒険者の半数以上は魔法職の人間。
魔法の技術を高める修練を積む彼らには、動きの遅いアラームは今も昔も人気の様子。
他の狩り人には、僕と同職同系のコンボモンク達や、無型特化を施した二刀アサシン達が多い。
無型モンスターの巣窟であるが故、こうした職の冒険者達にも愛着される場所となっていた。
そのほとんどは単身での狩りだけど、ごく希に、パーティやペアでの狩りも目に付く。
 
ここはそんな愛すべき彼ら達が、日々の生業を稼ぎ、あるいは力を付けたいと願い、集う場所。
そして僕もまた、その例に漏れない。
 
この場所には、僕にとっての脅威が二つある。生するために警戒すべき危険、というやつ。
一つは時計塔管理人が気まぐれに捨て置く、あのおぞましい炎柱魔法・ファイヤーピラー。
地面から炎の柱が伸びる様子は目視できる。
ただ側を横切るだけでも、ひどい熱度がぴりぴりとこの身に伝わる。
渦巻く炎に巻き込まれれば、もはや僕のような輩じゃ到底堪えきれない。
いや、実のところ僕は『金剛』という高防衛奥義も習得している。
……けれど、巻き込まれた後では、もはや意味をなさない。
数秒後には僕の身体は炭となり、塵となり、焼き消える(恥ずかしながら経験あり…)。
その後は、カプラサービスのテクノロジーにより、数刻前の自分の身体で意識を取り戻すのだ。
今の経験の苦さと悔しさをいっぱいにして。
ファイヤーピラーと対するなら、魔法に耐性がある装備を準備すること。
もしくは、体力に頼れる騎士くらいだろうか。
ともかくは、あの炎柱は視覚で警戒さえすれば問題ない。
 
そして、もう一つの脅威。
それは人は多い日に起こりやすい。偶発的な事故とも言える。
説明はするまでもない。今、僕の身に起ろうとしている事だから。
 

 
静止した僕の拳から、五つ目の閃光が消滅。
目の前のアラームががくりと膝を折る。続けてガッシャン、と機械質の破壊音。
その直後だった。
背後から複数の威嚇。咆吼。人でない声。
二匹、三匹、いやもっとだ。それらの殺気を僕はこの身に、同時に受けた。
「アラームが2匹、それに……ライドワード!?」
先ほどのアラームを倒したと同時に、複数体の沸きが発生したようだった。
今日はいつもよりずっと、人が多い。
モンスター達の警戒が強まり、通称『沸く』という現象が普段よりずっと高確率に発生する。
 
更に良くないことは続けざまに起こった。
まだ駆け出しのマジシャンだからか、彼女は機敏に移動するミミックから逃げている。
こちらに向かってくる様子では、僕に助けを求めたいようだった。
しかし、彼女の移動速度では、もうすぐにでも追い付かれてしまう。
僕もライドワードに苦戦を労し、アラームの巨体に阻まれ、身動きが取れない。
やがてマジシャンとミミックの距離は縮む。
巨大な口か大きく広がり、鋭い歯がギラギラと人間の肉に狙いを付け、牙を剥く。
ヒューン、という魔法音が響く。直後、彼女は僕の視界から消えた。
「は、ハエ飛び…って、え? まさかそのミミック、こっち持ち…?」
四対一になる。
 
完全に許容外の敵数をこの身に受け持つ。
回避型の職を経験する冒険者なら、その恐怖感は共感してもらえるはず。
特に、浮遊する本の悪魔・ライドワードの俊敏な噛み付きは、普段以上に避けきれない。
テレポート回避か、もしくは金剛──受けきれない。
ヒューン、先ほどと同じテレポートの魔法音を耳に捕らえた。
風貌はウィザードの男性。ギルドは…って、そんなのチェックしてる場合じゃないし!
これでテレポートの選択肢も消滅。
 
ポーションを可能な限り使用しながら、一身にライドワードを殴り撃つ。
三連撃『三段掌』から五連撃『連打掌』に繋ぐコンボ打撃。
流血が酷い。知が冷静さを奪ってゆく。治癒再生を促す白ポーションも残数が少ない。
ウィザードの人は、僕の姿に困惑しているのか、その場で棒立ち。
だめだ、追い付かない!食い裂かれる、ヒール、いや殴れ! 違う、金剛!
思考が迷走する。
突如、視界が暗転。敵の闇属性攻撃による、暗闇状態。
「クァグマイア!」
敵の動きが大きく鈍っていた。
暗闇で目視は出来ないが、この魔法の感覚には覚えがあった。
魔法による緑の泥沼が、モンスター達の自由を封じているんだ。
視界がブラックアウトしたまま、荷物の中を手探りし、緑ポーションを手にする。
暗闇状態を解除。同時に金剛の長い詠唱を開始。
間に合え! 間に合えッ!
焦りを抑えながらも、僕ら聖僧達の神に請う。願う。祈る。念じる。
ポーションが切れる。詠唱が終わらない、もう少し……。
 
──肉体の鋼鉄化。
もう、モンスターから被弾する攻撃は、先ほどの1/10の威力もない。
クァグマイアによる支援により、ほとんどの攻撃は避けきることができる。
金剛による高防御化により、当たってもかすり傷。
「これで一匹」
ついに強敵ライドワードが、僕の拳に沈んだ。
魔法書から悪魔の霊魂が消滅し、ページの紙やしおりが、四方にばさばさと散る。
鋼鉄化の影響で僕の動きも鈍いけれど、しかし目の前の敵を一体ずつ着実に仕留めゆく。
更にアラームの片割れを倒し、残りは二体。
新たな『沸き』を警戒していたが、これで当面の窮地は脱した。
あとはゆっくりと確実に、残りの敵を殲滅するだけ。
 
「助かりました、ありがとうございます」
「いえいえ」
せめてお返しにと、僕はブレスの支援をしようと思い立った。
だけどなぜだか魔法が発生しない。精神力にはまだいくらか余裕があるのに。
「あ、金剛が…」
金剛の効果中には、スキルを詠唱することは出来ないのだ。
彼は僕に何度かヒールを与えると、手を振りながら、
「そんじゃ、気を付けてねモンクさん」
ヒューン、と一人でそそくさテレポート。
僕の目論見も空しく、彼はどこかへ行ってしまった。
僕もああいう経験はある。
支援した直後は、自分の行為と相手の好意が照れくさい。
だからその場を離れたくなる習性が、多くの人間にはあるものだ。
 
「ああ。白ポ切れたんだっけ」
体力が限界を迎えていた。すぐさまその場に、へたりと座り込む。
へとへとになった肉体を休めるために。
眼中には時計塔の巨大な歯車達が、ぐるりぐるりと回っていた。
「このまま帰るか。もう白ポないし。あーあ、あのウィザードさん、もう会えないなぁ」
鋼鉄の軟化を待ちながら、仕方ないなとブレスのお返しを諦めることにした。
「次会ったら、ブレス漬けですから」
ささやかな野望を、心中に鋼鉄化して。
 

以上は、本日の体験を元に。

無駄にモンクの説明入れたり、もう長くなりすぎ。あと、特定層を狙ったキャラ仕立てにしてみた。はぁはぁしても現物は違います。あとは、書体の都合で、どうしてもライトノベルチックになってしまいました。時間見つけてCSS弄って普通の文章でこういうの書けるようにしとかないとマズいなぁ。慣れないコトしちゃダメだなぁ、時間もったいない…。

Wizさん、QM支援ありがとうございました。他にも何度かQMやプチヒール支援、貰ってます。可能な限りブレス支援のお返し致します。だからSes鯖在住のWizさん、颯爽とテレポ逃げしないで!その場で数秒制止ー!